壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

ガリレオの指 現代科学を動かす10大理論

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ガリレオの指 現代科学を動かす10大理論 ピーター・アトキンス
斉藤 隆央訳、早川書房 2004年 2800円

イメージ 2本書の扉には、ガリレオ本物の指の写真があります。遺体から切り取られ現在 フィレンツェの科学史博物館に展示されているというその指は、科学研究が新しい方向へ進みだした転機を象徴しているというのです。ガリレオの指が指し示すのは、検証可能性ばかりか本質を取り出す単純化と抽象化いう技法による宇宙の深遠。そこを目指すアトキンスと同行二人の旅に出ました。

「アトキンス物理化学」という教科書はあまりにも有名ですが、アトキンスは科学読み物にも定評があります。この「ガリレオの指」では、科学史における転換点(パラダイムシフト)と基本理論がきわめてわかりやすい言葉で、しかも格調高く語られています。

ただ内容はそれほど平易というわけにはいかず、読むのにずいぶん時間がかかりました。各章がそれぞれ独立したテーマを扱っているのですが、独特な宇宙観によって貫かれていて、一つずつアトキンスの言葉をたどっていくと、科学と宇宙の深遠を垣間見た気になります。

「進化」と「DNA」という生物学の真髄がたった二章にまとめられていて、その要領のよさに感心。「エネルギー」と「エントロピー」では単なる熱力学の解説ではなく、宇宙とどのような関係があるのかが議論されていて興味が尽きません。「原子」の章は著者の専門ですから力が入って詳しく、「対称性」や「量子」の章はついていくのが辛くて“私の専門は生物学だから”などと弱音を吐いてほうほうの体で逃げ出したくなります。

でも「宇宙論」の章では我慢した甲斐があって素晴らしい景色を味わい、面白い話が聞けました。ビッグバンは時空を凝固させた宇宙の冷却かも知れないと。「時空」の章では相対論に意識を失い、ついに昏倒いたしました。ゲーデルの悪夢を見つつ覚醒して、「算術」の章では前に読んだ「素数の音楽」に共通する風景をチラッと見ることができました。体系的な理解にはほど遠いでしょうが、少なくともトリヴィア的に理解したかもしれません。

「エピローグ」で言及される万物の理論(TOE):theory of Everythingは見つかるのでしょうか。なぜか、ハードSFが読みたくなりました。イーガン読もうかな。残念なのは原書にある索引が翻訳本にないこと。原書でたった10ページの索引なんだから付けてくださいな。