壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

知られざる宇宙―海の中のタイムトラベル フランク・シェッツィング

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知られざる宇宙―海の中のタイムトラベル フランク・シェッツィング
鹿沼博史訳 大月書店 2007年 3990円

深海にあこがれたのは、やはりノーチラス号に乗ったころからでしょうか。それとも海の中に親近感を持つのは、やはり人間が海棲哺乳類から進化したからではないかと・・・なんていうわけではなく、深海にあこがれたのは、やはりテレビの影響でしょうね。昔見た、クストー船長の「驚異の海底世界」。そして、深海探査機による最近の深海科学の発展は、環境科学の観点から盛んに紹介されていました。NHKスペシャル等で何度も取り上げられた深海底の不思議な生物に魅せられています。海底火山が噴出す硫化水素をエネルギー源にする細菌と共生する巨大な貝やチューブワーム、メタンハイドレートを餌にするゴカイなど、奇怪で魅力的な生き物たち。

ドイツのベストセラー作家フランク・シェッツィングの『群れ』(邦訳は「深海のYrr 」)という海洋SFがドイツでミリオンセラーとなり映画化の話もあるとか。このSFを執筆する際にシェッツィングが集めた膨大な資料をもとに、もう一冊このノンフィクションが出来上がったそうです。海底にまつわるいろいろな話が、地球誕生から現在さらに未来について饒舌に述べられています。軽くて冗談を多用するシェッツィングの文章は、読み始めはうるさく感じましたが、百ページくらい読んでやっと気にならなくなりました。

定説も仮説も異説も取り混ぜて、面白い読み物になっています。「これは教科書ではない」とシェッツィングが言うように、面倒くさい専門用語は少なく、ドーキンスのように天敵退治に手間取ることもなく、グールドのように進化論に対する主張や考察があるわけでもなく、とにかく面白い所取りの本です。進化のことは深く掘り下げずに、ハンドバッグをもったミス進化に任せてしまうという方法をとっています。(かといって別にIDではないですが。)

600ページもの長編に、図版や写真が一枚もないのもこの本の特徴です。エディアカラ生物群やバージェス頁岩の化石から作られた古代生物の想像図、深海底の奇妙な生物たちの写真を見たことがない読者は、シェッツィングの文章からどんな奇怪なものを想像するのでしょうか。いったいどんな形をしているのかを実際に知りたくなるでしょう。実物を見ることは難しいでしょうが、想像図はネットを探せばすぐに見つかります。

カンブリア紀に生息していた「オパビニア」という生物の復元図は、1972年に学会発表されたとき、あまりの姿に大爆笑され進行が中断されたというエピソードがあります。シェッツィングは「よろいをまとった新幹線と電気掃除機をかけあわせ・・丸い頭から出ているよく曲がるホースの先には、どんな道具箱に入れても引き立ちそうなギザギザのペンチが付いていた」と表現しています。姿を見たくなったらココをクリックしてください。

珊瑚礁、熱塩循環、津波、クジラなどの環境の話も、近未来のテクノロジーの話も、海に関する人気の話題が満載です。ちょっと長いですけど、気軽なノンフィクションとして楽しく読めました。