壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

月まで三キロ  伊予原 新

月まで三キロ  伊予原 新

新潮文庫  Kindle unlimited

静岡書店大賞受賞作だそうだ。コロナ前にリアル書店に平積みされていた本なので気になっていたが,いわゆる「いい話」らしく手を出しかねていた。読み放題で見つけたので読んだ。

「月まで三キロ」「星六花」「アンモナイトの探し方」「天王寺ハイエイタス」「エイリアンの食堂」「山を刻む」の六編に特別掌編「新参者の富士」が載っている。

人生を諦めそうになっている男,合コンに駆り出されたアラフォー女性,中学受験を控えた少年,子育てを終えて家庭生活に虚しさを抱く主婦など,どれも心に重荷を抱えた人たちが,天文学,気象学,地質学などの科学的な知識に触れて,抱えているものを手放すことができるという,心の救済を描いた話だ。

「宇宙の壮大なスケールや地球の長い時間に比べれば,自分の悩みなんてちっぽけだから・・・」ということではないだろう。全くの素人が,出会ったばかりの科学者の知識を理解して感動できるわけではない。わけのわからない学問に真剣に取り組んで人生をかけている人たちを見て,何かを感じたのだろうと思う。