壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

星の子  今村夏子

星の子  今村夏子

朝日文庫  Kindle unlimited

ドーキンスの若い人向けの啓蒙書『神のいない世界の歩き方』で気になっていた宗教二世の問題。今村作品三冊目『星の子』は,両親が怪しげな宗教にはまってしまった女の子の物語です。語り手は終始この女の子,現在中学三年生の林ちひろです。

未熟児で生まれたちひろは小さいころ体が弱かったのですが,治療ができないほどのしつこい湿疹が,「金星のめぐみ」という水で完治したことから,両親はその効能をすっかり信じてしまいました。引っ越すたびに狭くなる家,家出をして行方の知れない姉,親戚の救いの手を断ったことなど,ちひろの目に映ったものだけで,宗教を肯定も否定もせず淡々と物語が進んでいきます。

周りから見れば異常な家庭であっても,両親は愛情深く,何も知らない子どもから見れば,ごく普通の日常的な生活です。団体の集会にも参加し,その中に友達もいて,楽しいこともあります。しかしちひろも中学生になれば、周りのことにも少しずつ気付くことがあるようです。

教団の施設の庭で,親子三人が眺める星空のシーンが最後の場面です。ちひろはこの先どうなっていくのか,両親との関係はどう変化していくのか,読み手の想像力が試されているのかもしれません。

映画化されているそうですが,どんな解釈がなされているのか、見るかどうか迷います。