壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

なぜ絵版師に頼まなかったのか 北森鴻

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なぜ絵版師に頼まなかったのか 北森鴻
光文社 2008年 1500円

お雇い外国人が登場するらしいということと、「なぜ絵版師に頼まなかったのか」という駄洒落につられて読みました。

天涯孤独で松山出身の葛城冬馬は、明治と同じ年の13歳。ひょんなことから東京大學医学部主任エルウィン・フォン・ベルツ先生宅に給仕として使えることになりました。ベルツ先生宅はお雇い外国人のサロン。ナウマン(地質学)、ワグネル(化学)、モース(考古学)など多彩な学者が訪れて、毎夜のように花瓶を徳利代りにして、金襴緞子の部屋着をまとって論戦を展開しています。

生来聡明な冬馬少年は耳学問で語学に堪能となり、ベルツ先生の書生として東京大學予備門に進学しました。ベルツ先生は内科学だけれど、同僚のユリウス・スクリバ先生は外科学の権威。ベルツ先生たちはスポンサーであり、助言者。外国人同士の殺人事件、美術品の海外流出、明治政府内の政争を背景に、葛城冬馬と、毎回名まえと職業の変わる旗本の三男坊が事件を解決します。

北森鴻さんは、たしか『凶笑面』というのを読んだだけです。本書は、ずいぶんと雰囲気が違いますね。謎解きもあっさりとしたユーモアミステリで、暑い盛りに読むには最適です。13歳の冬馬少年が22歳になるまでの様子もほほえましい。

『なぜ絵版師に頼まなかったのか』『九枚目は多すぎる』『人形はなぜ生かされる』『執事たちの沈黙』は、A・クリスティー、H・ケメルマン、高木彬光、T・ハリスだと思うけど、『紅葉夢』がどのミステリのもじりなのか、私にはわかりません。