お雇い外国人が登場するらしいということと、「なぜ絵版師に頼まなかったのか」という駄洒落につられて読みました。
天涯孤独で松山出身の葛城冬馬は、明治と同じ年の13歳。ひょんなことから東京大學医学部主任エルウィン・フォン・ベルツ先生宅に給仕として使えることになりました。ベルツ先生宅はお雇い外国人のサロン。ナウマン(地質学)、ワグネル(化学)、モース(考古学)など多彩な学者が訪れて、毎夜のように花瓶を徳利代りにして、金襴緞子の部屋着をまとって論戦を展開しています。
生来聡明な冬馬少年は耳学問で語学に堪能となり、ベルツ先生の書生として東京大學予備門に進学しました。ベルツ先生は内科学だけれど、同僚のユリウス・スクリバ先生は外科学の権威。ベルツ先生たちはスポンサーであり、助言者。外国人同士の殺人事件、美術品の海外流出、明治政府内の政争を背景に、葛城冬馬と、毎回名まえと職業の変わる旗本の三男坊が事件を解決します。
北森鴻さんは、たしか『凶笑面』というのを読んだだけです。本書は、ずいぶんと雰囲気が違いますね。謎解きもあっさりとしたユーモアミステリで、暑い盛りに読むには最適です。13歳の冬馬少年が22歳になるまでの様子もほほえましい。