壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

江戸に和む 根本裕子

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江戸に和む 根本裕子
文芸社 2005年 1400円

実物を見ることができなくても、というより実物を見ることができないからこそ、様々な動物や植物の話を読むのが好きです。遠い外国の珍奇な生物も、現代日本の実在の生物も面白いですが、このところ興味があるのは、昔の日本人の生物観といったようなものです。

国立国会図書館の公開資料に『江戸時代の博物誌』という電子展示を見つけました。古典園芸植物の図譜が多数。珍禽奇獣異魚の章には深海魚の図譜がありました。もともと深海生物は奇怪な姿ですが、このころの動物画の例に漏れず妙に擬人的で奇怪さがさらに増しています。

伊藤若冲の動植物にも惹かれました。江戸時代の幽霊や妖怪も面白いです。私の定義では幽霊は死んでいるけれど、妖怪や化け物は架空の「生き物」です(笑)。こういうものを作り上げた江戸時代の庶民文化を知りたくなりました。若いころは戦国時代や幕末を舞台にした時代小説も好きで読みましたが、最近は戦闘場面のないもの、つまり江戸時代の人情物が好みです。


前置きが長くなりましたが、本書「江戸に和む」はブログで知り合った猫造さんの著書です。素敵な感性をお持ちだと思っていましたら、江戸文化の研究をなさっているライターさんとのこと。江戸時代の人々の暮らしをいろいろな角度から眺めた、軽妙な語り口の本で、とっても楽しめました。

冒頭はお月見と菊という秋の話題です。電燈のない時代の月に対する考え方や、江戸のお供えの方法から団子の作り方まで盛りだくさんです。江戸時代の園芸ブームで人気の高かった菊については、菊人形ばかりか菊酒の話もありました。お雑煮、お蕎麦、化粧、歯磨きなど身近な話題がたくさん。

私がいちばん面白かったのはお米の話。もっぱら消費するばかりの大都市にいかにお米を運んでくるのかとか、米本位制という硬い話題も分りやすい。北日本の米を利根川経由で水路によって運んでいたとは知りませんでした。そういえば、千葉の内陸部に運河駅というのがありましたね。また、江戸時代は交通に馬が使われなかった理由として、乗馬専用の馬は「現代で言えばポルシェかフェラーリ並みの高価なものだった」という比喩には、とても納得しました。交通事故の話も面白かったなあ。

「江戸っ子の怖い話」には、もちろんお化けや幽霊も出てきますが、最もぞっとしたのは、「うぶめ」の話。江戸時代が豊かでありながら人口爆発に至らなかった理由と深く結びついているそうです。(詳しくは本書で^^)。