壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

フランケンシュタイン   メアリ・シェリー

フランケンシュタイン  現代のプロメテウス  シェリ

小林章夫訳 光文社古典新訳文庫 Kindle Unlimited

知っていると思っていたのに,実は知らなかった未読本でした。200年前に20歳の女性によって書かれた「怪物※」の物語はとても悲しい。枠としての手紙文の中で,人工の生命を作り上げた上に見捨てた科学者の罪の意識ゆえの苦悩が,多少身勝手に語られる。また知性を持った「人間」として生きようとするのに,科学者に見捨てられ,醜さゆえに他者に「怪物」として疎んじられ,孤独の中で哀しみ苦しむ姿が語られる。復讐のために科学者を追う怪物,抹殺するために怪物を追う科学者の長い放浪の旅の風景が美しく描かれているのに,何とも虚しく痛ましい。二十歳そこそこでこれを書いたメアリーの人生も波瀾万丈だったようです。

フランケンシュタインは「怪物」を作った科学者の名前

 

読後の雑念

こういう,いろいろな解釈の出来そうな本を読んだ後には,雑念が浮かんだり消えたりする。読みたい本が出来たので,忘れないようメモっておこう。

★長らく「キワモノ」扱いだったのだろうか。有名なのに,昔読み漁ったグリーン版の河出世界文学全集に入っていなかったが,近年多くの訳本が出ている。幻想文学やSFが文学の正統ではないという時代は終わったと思うが,やはりそのジャンルではノーベル文学賞は貰えないのか。カナダの女流作家アリス・マンローが受賞してから10年が経つので,そろそろではないかと思うのだが,マーガレット・アトウッドは受賞しないのだろうか。

→アトウッド『オリクスとクレイク』の第二部『洪水の年』を読みたくなった。

フランケンシュタインには~現代のプロメテウス~という副題がある。200年前に「現代のプロメテウス」だったフランケンシュタインを模すなら,21世紀に生命を再生する科学者は「現代のフランケンシュタイン」なのだろうか。ギリシャ神話のプロメテウスは人間を創造し,さらに神の火を盗んで人間に分け与えたという。その罪によって山の上に磔にされて,大鷲によって毎日肝臓を食いちぎられ,夜中に再生する肝臓を食われ続けた。人間(怪物)を作り出してしまったヴィクター・フランケンシュタインもまた,その罪の重さに死ぬまで苦しめられた。プロメテウスは弱弱しい人間を憐れんで火を与え,人類の繁栄をもたらしたが,フランケンシュタインは怪物の醜さに驚いて,自分勝手にも自分の創造物を見捨て,配偶者(と子孫)を作り出すことを拒否した。火を手にして繁栄した人類は,化石を燃やして環境を破壊し生命を再生して,子孫たちをどうしようというのか。

→「人類の未来」というような本が数限りなくあって,どれを読むべきなのか見当も付かない。

★二次創作物がたくさんある。Wikipediaによれば数十本の映画が作られているそうだ。影響を受けた小説類も多数。人によって作られた醜い生命が疎んじられるという事から,『ナウシカ』の巨神兵を思い出す。映画の方ではなく,コミックの『風の谷のナウシカ』の最後は何だったのだろうか。

→『ナウシカ考 風の谷の黙示録』という本を読みたくなった。

★枠物語という形式について。二つのまえがき,第三者からの手紙,その中のフランケンシュタインの語り,さらにその中の「怪物」の独白という,ぶ厚い額縁をもった構造だった。枠という形式をとらないと書けない(もしくは読めない)物語には,幻想的なものが多い。リアルな日常から移行する,高い心理的バリアーを飛び越えるための枠なのだろうか。手紙という枠は何のためにあるのか。

→「批評理論入門 『フランケンシュタイン』解剖講義」を読んでみたくなった。