壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

中庭の出来事

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中庭の出来事 恩田陸
新潮社 2006年 1700円

恩田洋菓子店の新製品「中庭の出来事」を戴きました。この洋菓子店は、ジャンルにとらわれない斬新な品揃えで有名です。今までに味わった中では、「夜のピクニック」という焼き菓子が最高でした。見かけは平凡なのに、馥郁たる青春の香り豊かな味わいは若い人ばかりか、われわれ年寄り仲間にも人気があります。

「中庭の出来事」は、箱を開ける前から強い匂いが漂ってきました。やや癖がありますが好みの匂いです。かなり凝った包装で、はやく箱を開けてお菓子を味わいたいのに、どこから開けていいのやら見当がつきません。包装紙も箱も美しいので、ビリビリと破いてしまうような事はしたくないのです。

やっと一番外側の包装紙の端が見つかりました。そっとはがして包装紙を広げてみると、細渕という脚本家の脚本の一部をデザインしたもののようです。中身の箱がまたひどく凝った作りです。箱根の寄木細工のように開け方がわかりません。ようやく開けてみれば、霧に包まれた山中の風景と高層ビル街の中庭の風景が印刷された包装紙で、二重に包まれたものが出てきました。

さらに、ホテルの中庭の風景と、三人の女優の舞台風景のイラストが描かれた箱が、箱根細工の入れ子人形のように何層にも重なっていました。「中庭の出来事」という名前のお菓子はどこにあるのでしょうか。とうとう最後まで見つかりませんでした。あの匂いはこの箱に染み付いていました。

小さなお菓子なので包装材と一緒に私が捨ててしまったのでしょうか。洋菓子店の店員が入れ忘れたのでしょうか、それとも陸さんというパティシエの趣向なのでしょうか。美しい包装と、箱を開けることを充分に楽しんだものの、甘いものが味わえなかった私は心残りです。

チョコレートコスモス」というおいしそうな名前のスウィーツもあるそうですが、今度味わって見ましょう。あまり包装に凝らないで、味に工夫をこらしてあるといいのですが。