2000年に全集が出ていたことなど全く知らず、図書館の隅の隅に並んでいた全8巻の全集を見つけました。とりあえず第一巻を借りてきました。図書館の全集には箱がなく味気ないのですが、素敵な装丁は文庫版にありました。
「ミラノ 霧の風景」は12のエッセイ集です。第一話「遠い霧の匂い」からミラノの霧に吸い込まれました。
ヴィヴァルディーの四季を(イムジチではありませんが)聞きながら、イタリアに浸って休日の午後の読書を楽しむ予定でしたが、いろいろと中断があり、やはり夜になってしまいました。気分だけ、今日の夕食は、パスタです。
著者が留学してから12年間を過ごしたミラノの人々と風景を、帰国後20年経って発表した、まさに珠玉のエッセイです。イタリアといえば、単純に太陽のきらめく地中海の風景を想像する私に、北イタリアミラノの冬の冷たい霧を教えてくれました。イタリアの生活、夫の死、友人との出会いと別れ、本との出合いが、透明感のある明晰な文章で静かに綴られています。
イタリアの地名も地理も歴史も知識がないので調べながら読んだのですが、著者のイタリア文学の翻訳者研究者であった部分を理解する事はできませんでした。イタリア文学体験はほとんどゼロで、ダンテはまだ読めていないし、モラビアをほんのすこし、カルヴィーノはSF方面から入って読んだだけなので、思想的背景が全くわかりませんでした。
しかし、あとがきの最後の『いまは霧の向こうの世界に行ってしまった友人たちに、この本を捧げる。』という文章がすべてを物語るようです。死ぬまでにナポリもイタリアも見ることはないでしょうが、言葉の力によって、その地域と時代の息遣いようなものを、たしかに感じたのだと思います。