壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

コルシア書店の仲間たち 須賀敦子全集第一巻

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須賀敦子全集 1
河出書房新社 2000年 5000円
ミラノ 霧の風景/コルシア書店の仲間たち/旅のあいまに

「コルシア書店の仲間たち」
ミラノの小さな書店コルシア・デイ・セルヴィは、カトリック左派運動の共同体でもありました。著者のミラノでの生活は、カトリシズムという土台の上で、この書店を中心にまわっていたようです。この書店に出入りする、実にさまざまな人物の思い出からなる短編集です。
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テレーサおばさんは大資本家の令嬢で、この書店のパトロンの一人。ダヴィデ・マリア・トゥロルド神父は、政治活動を行なって教会から追放処分された。由緒ある家柄の出であるフェデリーチ夫人のサロンでかわされる文学談義。娘自慢の弁護士カッツァーニガ氏の客間の壁にあった、二枚のジョルジョ・モランディーの静物画。
ユダヤ人の父親をもち、ヒットラー似のドイツ人と結婚したニコレッタ。十歳でアフリカから連れてこられ、読み書きのできないミケーレ。「ミラノ霧の風景」にも登場した編集者のガッティには40歳も年の離れた妹ができた。

多様な背景を持つ人物が、色も太さも手触りもちがう縦糸であれば、須賀敦子さん自身は、目立たないけれど細くて勁い横糸でしょうか。そんな縦糸と横糸で丁寧に手織りされた、織物のような短編集が「コルシア書店の仲間たち」です。夫が亡くなったときのことさえ言葉すくなに語るのみですが、遠い異国での著者の生活と友人たちのとの交流は、読むものの心に響いてきます。

「旅のあいまに」
一つずつ、どこかで、バラバラに読んだら、「事実は小説より奇なり」くらいに、見過ごしてしまったかもしれない、こぎれいにまとまった短編も混ざっているのですが、須賀敦子という文脈の中で読むとまたちがった意味合いがあるようです。最後の話「夕闇のむこう」では、ユルスナールの言葉に著者と一緒に心を揺さぶられました。著者は祖母を思ったが、私は自身を思った。