壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

須賀敦子全集 第5巻

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須賀敦子全集 第5巻
河出書房新社 2000年

イタリアの詩人たち/「翻訳」ウンベルト・サバ詩集/「翻訳」ミケランジェロの詩と手紙/「翻訳」歌曲のためのナポリ詩集

「ミラノ霧の風景」の「きらめく海のトリエステ」、「トリエステの坂道」で語っていたウンベルト・サバにたいする、須賀さんの思い入れに惹かれて、サバの詩を読みました。装飾のための言葉は一つもなく、古典からの引用や言及がすくないやさしく平易な詩ですが、トリエステでの家族との日常生活のよろこびと、それ以上に深いヒトの哀しみがせまってきます。須賀さんの訳があって初めてこの詩を味わう事ができるのでしょう。

詩を、ましてや訳詩を読む機会はほとんどありません。詩は黙読には向かないものでしょう。声に出して詩や文を読む行為は高校時代で終わりでした。子供が小さい頃にお話をたくさん読んであげたのはカウントできませんが、そういえば小学校低学年の子供と一緒に詩の朗読の練習をしたことがありました。

須賀さんのサバへ敬愛の念と親近感は、サバの詩を読んで少し理解できましたが、巻末の池澤夏樹氏の解説でもっと直裁的に納得しました。でも須賀さんの、言葉にしきれない悲しみを見てしまったようで切ないです。サバの「孤独」という詩でトリエステに吹く北風を頬に感じたように思いました。