壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

アルトゥーロの島 エルサ・モランテ

イメージ 1

アルトゥーロの島 エルサ・モランテ
中山エツコ訳 河出書房新社 世界文学全集I-12 2008年 2800円

四十年ほど前に「禁じられた恋の島」という邦題で翻訳されていたそうです。そういえば、河出のグリーン版世界文学全集で見かけたことがありますが、学校の図書室では借りにくいような題名だったためか、読んだことはないと思うのですが、でも既読感があるような気もして・・映画を観たのか・・仔細不明。

二段組で350ページは結構長く、このところ読書がほとんどできないので、読了まで一週間もかかりました。まあ、ゆっくり読むのもいいものです・・。

ナポリ湾の小さな島で暮らすアルトゥーロは、誕生の時に母親を失い、たった一人の身内である父親にかまわれず、ほとんど野生児のような暮らしをしていました。子守に読むことを習った以外はなんの教育も受けませんでしたが、世界を書物から知り不在の父親を冒険者として英雄視し、誇り高い少年に育ちました。

アルトゥーロが14歳の時、父親が16歳の後妻ヌンツィアータを島に連れてきました。同年代の友人としてのヌンツィアータに、やがて父を奪った者としての敵意をいだき、また生まれたばかりの弟に向ける母性に対して嫉妬を持ち、とうとう「禁じられた恋」にたどり着いてしまいました。最後に、あることがきっかけで、兵隊に志願してアルトゥーロは生まれ育った島を出て行きました。

アルトゥーロ自身が回想的に物語るのは、少年の日の情景と島の美しい風景です。20世紀の二つの大戦の間の物語とは思えないくらい、島での古風な暮らしは現実離れして、神話のような楽園喪失の物語。父と息子、父と祖母、会ったことのない母、継母との関係にゆれる少年の心象が濃密に描かれています。