壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

肖像彫刻家 篠田節子

 

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肖像彫刻家 篠田節子 2019年3月刊

実直な性格で技術はとても高いが芸術家としての独創性には欠ける主人公高山正道は妻子に逃げられ,一念発起してイタリアで7年修行して帰国したが親の死に目にも会えず,なけなしの相続財産で田舎暮らし。バイトしながら細々と彫刻を作り続ける。どこまで苦労が続くのかと思ったら・・・

「レオニダスとニケ」  田舎暮らしを始めた正道の隣に住む大家さん夫妻の距離感のない好意は,想定外のシーンにつながっていく。爆笑。でも,あるある,絶対ある。こういうの見たことあるから。

「雪姫座像」「高砂」「雪姫立像」 誠実に人物に寄り添いながら,イタリア仕込みの高い技術で作り上げた肖像は,(あたかも)魂の宿った(ような)作品となり,評判を得ていく。

「最高峰」「アスリート」 知の最高峰といわれた哲学者,新体操選手の肖像。どれも彫刻作家自身の魂ではなく,肖像のモデルとなった人物の思いが宿ってしまう。

「寿老人」 長生きするというのはそういうことか,と納得。遠い身内より近くの他人。

今までは,「人間の小さな悪意をホラー風味に扱う篠田節子さん」という印象を持っていたが,これは人情とユーモアにあふれた爽快な作品でした。