壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

奇妙な論理Ⅰだまされやすさの研究

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奇妙な論理Ⅰだまされやすさの研究 640円 1989年
奇妙な論理Ⅱ空飛ぶ円盤からユリ・ゲラーまで 600円 1992年
マーティン・ガードナー 市場泰男訳 社会思想社 教養文庫

奇妙な論理Ⅰは、「In the Name of Science」の抄訳(全25章のうち11章を訳出)で、1980年に社会思想社から出ていました。原書は1952年(なんと50年も前)に書かれたものです。ガードナーの疑似科学批判の原点というべきものでしょうか。奇妙な論理Ⅱは、Ⅰが好評だったので残りの章も訳したようで、文庫版ではさらに「Science: Good, Bad, and Bogus1981年」の一部を紹介しています(新たに翻訳しないのかしら)。

新奇な理論が正規の科学として受け入れられるのか、反証によって破棄されるのか、もしくは疑似科学として蔓延するのでしょうか。科学的に実証されるものもあれば、ある確率をもってのみ確証を得ることができる場合もあります。宗教的支配、国家的支配のもとでの科学は捻じ曲げられるでしょう。

この本では、疑いもなく明らかに疑似科学であるものが、その時代になぜ現われたのかを明らかにしています。話題は古いのですが、50年たっても繰り返し語られる疑似科学はあとを絶たちません。

科学の名において―擬似科学と奇人のプロフィル
平たい大地、中空の地球―地球空洞説の周辺
地球をゆるがした怪星たち―聖書の奇跡の「天文学的」裏づけ
くたばれアインシュタイン―相対論の揚足とり
地質学対創世記―進化論への抵抗
憎悪を煽る人々―人種差別の「科学的」基礎
医療の四大宗派―同種療法、自然療法など
食物のあぶく流行―断食からハウザー食まで
オルゴン理論―オルガスムと宇宙論
ダイアネティックス―出生前記憶と精神治療
ESPとPK―ラインの実験の問題点
円盤狂時代の開幕―異星人が地球を見張ってる?
占い棒と占い振子―地下水や石油、病気や性別もピタリ
生命をつくり出す人々―現代のホムンクルス
ルイセンコの勝利と敗北―科学が権力にすり寄るとき
アトランティスとムー―「失われた大陸」の魔力
ピラミッドの神秘―数字が未来を予言する
奇跡の医療機械―えせ医師たちのボロもうけ
めがねを捨てろ!―オルダス・ハクスリーもだまされた近眼治療
奇妙な性の理論―男女児の産み分け、若返り、保留性交など
一般意味論とサイコドラマ―精神治療のわき道
骨相学から筆跡学まで―性格判断のいろいろ

ルイセンコ学説を今後読むために、ルイセンコの勝利と敗北―科学が権力にすり寄るときを詳しく見ます。

「1920-30年代にラマルキズムは既に衰退しつつあったが、メンデリズムがロシア共産党から「ブルジョア観念論」というレッテルをつけられてからは、多くの遺伝学者がソ連で活動を制限された(追放 投獄 迫害 処刑)。園芸家であったルイセンコはミチューリンのラマルキズムを受け継ぎ、スターリンの支持を得た。メンデリズムのような遺伝形質が変化しないものであったり、自然選択のように無目的なまわりくどい方法より、ラマルキズムのように個体の努力が子孫に伝えられると言う考え方は、新しい社会を建設しようという感情にぴったり合うのことから、政治的プロパガンダとして使われた。」と言うことです。

アメリカの一部では進化論を教えてはいけないことになっているが、科学研究に支障が出るということは無いそうです。無知な政治的指導者が、自分は科学上の論争を裁定する資格があると思い込んだとき、科学がどんなに急速に、どれほど容易に腐敗することがありうるかを思い起こさせる例である。

ルイセンコはスターリンの死後(1953年没)失脚したが、それ以後も一定のアカデミックな地位を保っていたらしい。