壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

灯台へ ヴァージニア・ウルフ

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灯台へ ヴァージニア・ウルフ
鴻巣友季子訳 河出書房新社 世界文学全集II-01 2009年 2600円

精緻な心理描写というか、意識の流れを描いた小説は苦手ですが、本書は楽しむことができました。とくにラムジー夫人とリリーの心理が高い解像度で描かれていて、いくら強拡大してもぼやけないくらいに緻密に書き込まれています。息の長い一文が日本語にはない文章構造をもっているようで、鴻巣さんの文章のリズムに巧く乗ることができ、文章を味わうことができたのでなんとか読了に漕ぎ着けました。かなりの集中力を要する読書で時間がかかりましたが、読み終えてとても爽快です。

小島の別荘に滞在する幸せなラムジー家と、それを取り巻く人たちの一日が描かれる「第一部 窓」では、ラムジー夫人の視点で主に語られます。沖にある灯台に行きたいという末っ子のジェイムズの願いは父親によって一蹴されます。

「第二部 時はゆく」では第一次大戦をはさんだ十年の歳月が瞬く間に流れます。まるでコマ落としの映像をみるように年月が移り変わって、小島の別荘が住む人のいないままに荒廃していきます。

「第三部 灯台では何人かの登場人物が故人となっていました。ラムジー一家とともに画家となったリリーたちが再び島を訪れ、かつて皆が揃っていた頃を回想します。末っ子のジェイムズも末娘のキャムも幼い頃の面影はなく、父ラムジーにつれられて灯台に向かうのですが、様子は険悪です。たしかに、あの幸せだった時代とは変わってしまったようにも思えるけれど、変わらないもの、そしてまた別の形の希望があるようです。

今日が(もう昨日です)返却期限で、リースの「サルガッソーの広い海」の方はとうとう読めませんでした。そのうちまた、にします。