壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

隠居すごろく  西條奈加

隠居すごろく  西條奈加

角川文庫  Kindle Unlimited

商売一筋で堅実を旨としてきた糸問屋嶋田屋の六代目徳兵衛が、還暦を期に隠居をする。これでやっとのんびり好きなことが出来ると思っていたが、どうも当てが外れた。頑固爺は何にもすることがないのだ。ところが八歳の孫千代太は心優しいがなかなかの頑固者で、徳兵衛の隠居所に次々に「厄介事」を持ち込んでくる。その厄介事にかかわっているうちに、第二の人生(二枚目の双六)が廻り始める。静かだった隠居所は十数人の貧しい子供たちであふれ、シングルマザーの働く場所になっている。損得ばかりを考えていた徳兵衛が、もっと広い視野を持つようになって、多くの人が助けられた。

とにかく面白くて、賑やかで楽しい本でした。登場人物が泣き笑いするので、読者はそれに引っ張られるだけで、なにも考えずに読めて、ストレス解消になりました。こういう楽しくてお気軽な本もいいなあ。

徳兵衛は最後に、二枚目の双六で多くの人たちとのつながりができ、過去や現在が途切れることなく未来へと続いていることに気が付きます。その双六には“『上がり』がないことに、徳兵衛はようやく気が付いた。”とあります。自分が死んでも、これまで歩んできた道は続くのだと言いたいようです。男性は引退後に、もう一花咲かせたいと願うのでしょうか。以前読んだ藤沢周平の『三屋清左衛門残日録』も同じように、一花咲かせた話でした。

物語の最後は徳兵衛の葬儀の場面で、“還暦からの隠居生活十二年”とありました。徳兵衛は72歳くらいでしょうか。私も今年で72です。もう、いつ自分の『上がり』に着いても構わないのですが、まだ双六をしなければいけないのでしょうか。最近は賽の目を振っても、いつも『』しか出ないような暮らしです。一歩一歩転ばないように、という事でよろしいでしょうか。

 

続編『隠居おてだま』がもうすぐ出版されるらしい。徳兵衛の葬儀の場面があったのに、どういうことかな???