壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

「幽霊屋敷」の文化史 加藤耕一

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「幽霊屋敷」の文化史 加藤耕一
講談社現代新書 2009年 760円

東京ディズニーランドホーンテッド・マンションというのは、ヨーロッパの歴史が生み出した文化的結晶というべきもの」と語る筆者の思い入れの深さが感じられます。そこで使われているトリックが実は最先端技術ではなく、19世紀に盛んに興行されていたファンタスマゴリーの幻灯機によって投影される映像が主だそうで、そのクラシックな仕掛けと建物の工夫が興味深く解説されています。

さらに面白かったのは『ゴシック』という概念の歴史的な変容です。本来は中世の建築様式を表す「ゴシック様式」はルネッサンス時代の蔑称であったけれど、18世紀後半にゴシック建築への再評価が始まり「ゴシック・リヴァイヴァル」と呼ばれる芸術運動へと発展していきました。

幽霊の発祥はシェークスピア、さらに「墓場派」の詩人たちによって引き継がれ、その影響は建築にも及んで、18世紀の英国では実際に「廃墟建築」が行われていたそうです。ヘンリー八世によるカトリック修道院の解体で、廃墟と化したゴシック様式の聖堂に対する英国特有の美学があり、ここから「幽霊の出そうな」建物、「幽霊物語」という連想から、「ゴシック小説」「ゴシックロマン」が生まれました。

ホレス・ウォルポール『オトラントの城』のゴシック・ストーリー、クレアラ・リーヴ『美徳の戦士』と続き、『ヴァテック』を書いたウィリアム・トマス・ベックフォードは嵩じて風変わりなゴシック様式の僧院まで建ててしまったそうです。

さらにゴシック小説の系譜は、マシュー・グレゴリー・ルイス『修道士』、アン・ラドクリフ『ユードルフォの謎』、シェリー『フランケンシュタイン』と続きます。(これらのゴシック小説ファンの女性を描いたのがジェーン・オースティンの『ノーサンガー・アベイ』だそうです。)ヨーロッパからアメリカに渡ったゴシック文学の最高峰はやはりポオ『アッシャー家の崩壊』。さらに現代に至り、ゴシック・ホラーはいっそう盛んなのです。

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TDLの「ホーンテッド・マンション」を見物したくなりました。20年以上前にメリーゴーランドにしか入れなかった覚えがありますので。「ホーンテッド・マンション」はあまり怖くなくていいなあ。

お化け屋敷も絶叫マシーンも、ホラー小説も怖いのは苦手。でも、ちょっとだけ見たいのです。「怖いものみたさ」ってよく分かります。