壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活 ニール・ゲイマン

墓場の少年

ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活

ニール・ゲイマン 金原瑞人

角川文庫 電子書籍

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惨殺された家族の生き残りだった赤ん坊は、墓地の中で幽霊たちに見守られて成長していった。何百年も前からある古い墓地に住む幽霊たちの時間は止まったままだけれど、名前のないノーボディ(ボッド)少年は、幽霊たちに慈しまれて成長していく。

この世とあの世を行き来できる後見人のサイラスはボッドが外の世界では命をねらわれているという。でも、古い墓石の墓碑銘や霊廟にある古い本を読むだけでは、少年の好奇心は満たされないのだ。

成長して、少しずつ外の世界に向かっていく少年、少年の命をねらう謎の組織のジャックたち…

ジャックたちとの対決では、墓地での経験を見事に生かして難局を切り抜けていく。

幽霊たちは愛情深く少年を手放し、少年は外の世界での未来に踏み出していく。

 

夏にホラーを読んだついでに積読していた本で、冬も終わりになるころにやっと読みました。児童文学として素晴らしかったです。身寄りもなく、独りで世界に踏みだしたノーボディのこれからは苦しいこともたくさんあるだろうけれど、「頑張れ!!」っていう気持ちでいっぱいです。

 

登場人物や状況など、英国を知らない者としては消化不良の点もありました。そういえば、ジャック○○○ってナーサリーライムにも出てくるし…そうか!謎の集団だったんだ(笑)。

ぼぎわんが、来る 澤村伊智

ぼぎわんが、来る 澤村伊智

角川ホラー文庫電子書籍

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映画をアマプラで居眠りしながら見てよくわからず消化不良となり,原作を読む。第一章の語りは知紗の父である田原秀樹。家族思いのイクメンであるらしいが,実は勘違いパパであることがかすかな違和感として示されている。第二章の語りは知紗の母である田原香奈。サイコホラーの定番として,イクメン秀樹の語ったエピソードは次々にひっくり返されていく。第三章の語りはライターの野崎。比嘉姉妹と一緒に知紗を助けようと行方を追っていく。秀樹も香奈も野崎も心の闇を抱え,そこに“あれ”が忍び寄ってくるのだ。

 映画では“あれ”としか呼ばれなかったものが“ぼぎわん=○○○(欧米か!)”として認知され,伝承の中での位置付けがなされたことで,オカルト初心者としては納得がいった。映画にしても原作にしても,“あれ”の怖さよりも人間の心の闇の怖さのほうが印象的だった。

 魔導符というのをはじめて聞きましたが,怖いよ~。たくさん護符が貼ってあるのも怖いけど,その中に魔導符が混ざっているって,どうしよう。

 映画と原作は多くの違いがあるが,矛盾は感じなかった。テクストと映像のそれぞれに適した表現方法があるのだなと思う。原作を読み終えてもう一度映画を見ました,今度は居眠りせずに。三度楽しめたかな。

夢見る帝国図書館 中島京子

夢見る帝国図書館 中島京子

文藝春秋 2019年5月 

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フリーライターの”私”が国際子ども図書館の取材の帰りに上野公園のベンチで知り合った初老の喜和子さんは,不思議な人物だった。喜和子さんとたまに出会って話をするたびに,彼女のこれまでの人生の謎の部分が広がっていく。また上野界隈の風景の変化とともに,喜和子さんをめぐる個性的な人たちとの交流が広がっていく。

 喜和子さんの亡き後に知り合った孫の紗都との交流に心温まる思いです。戦後の上野のバラックで暮らしていたという喜和子さんの謎の部分が明らかになるにつれ,小さいときから苦しい人生を送ってきた喜和子さんが求めていた自由というものが何だったのか分かったように思いました。

一方,喜和子さんが書こうとしている,または,語り手に書いて欲しいという,または,もう誰が書いているかもしれない『夢見る帝国図書館』という小説のようなテクストが並行して進行していく。明治の初め,ヨーロッパの図書館に負けない立派な帝国図書館を目指すも諸事情により果たせないという図書館の歴史が,様々なユーモアに満ちた現実と架空のエピソードで綴られる。

図書館に通ってくる明治の文豪たちのつながりは妄想の域に達していて楽しかった。樋口一葉に恋する図書館,谷崎と芥川のあのインド人が菊池寛に侵入(?)していくのに笑わせられました。震災をへて,図書館の増設は戦費調達のため頓挫し,発禁図書,略奪図書,上野動物園の動物たち,GHQと盛りだくさんのエピソードです。

 「上野って,昔から,そういうとこ。 いろんな人を受け入れる。懐が深いのよ」という喜和子さんの言葉と,最後の「とびらはひらく/おやのない子に/脚をうしなった兵士に/ゆきばのない老婆に/…… 真理がわれらを自由にするところ」という瓜生平吉の詩がリンクして,図書館は「誰に対しても自由に開かれた場所でなくてはならない」と考え,本と図書館を愛する私たちに深い感動を与えてくれるのでした。

鈴木家の嘘 野尻克己

鈴木家の嘘 野尻克己

ポプラ社 2020年6月

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鈴木家の長男・浩一が引きこもりの末自死し,母はショックで意識不明になった。49日に意識を取り戻したが,浩一に起きたことを一切覚えていない。父と長女は,「浩一は引きこもりをやめてアルゼンチンで働いている」という嘘をついてしまう。

 家族の自死という重い深刻なテーマを陽気な雰囲気で伝えようと,ユーモアというオブラートに包んでいる。しかしオブラートの中身はやはり相当に苦い。家族による発見,混乱,自責,自罰感情,果てしない後悔が繰り返し描かれる。冒頭のソープランドの場面から軽い気持ちで読み始めたが,途中は胸を突かれる。嘘の結末をどのように付けるのか知りたくて辛い部分を読み抜けた。

しかし,叔父の結婚パーティーのドタバタから嘘がばれ,そのあとは家族による事実の受容,家族の再生へつながる物語に救われる思いだ。

 図書館でたまたま見つけた本なので,映画「鈴木家の嘘」の脚本を小説化したものだということを本の奥付で知りました。「ノベライズ」というような軽いものではなく,きっちりとした小説です。そのうち映画も見てみましょう。

ウインター・ホリデー 坂木 司

ウインター・ホリデー 坂木 司

 2014年 文春文庫 電子書籍 

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ワーキング・ホリデーの続編。元ヤン・ホストの宅配配達員のヤマトと息子進の親子関係がどんな風に進展していくのか楽しみなところ。夏休みの初めての出会いから数か月,冬休みに入った進とやっと会えるとそわそわするヤマトは相変わらずガキっぽいままだが,しっかり者の進とのかかわりあいの中で少しずつ父親として成長していくようです。テンポのよい展開につい一気読みしました。

 

宅配のお仕事が年末には超多忙だというのは聞いてはいたが,宅配のおせちが特に大変だったのね。年末年始には,宅配を頼まないようには気を付けているんですが,今年はコロナもあって運送業はもっと忙しくなるかも。ホストクラブオーナーのジャスミンさんかっこいい! コロナで,ジャスミンさんのホストクラブはどんな感染予防対策をとっているのかしら(妄想)。続編『ホリデー・イン』があるらしいけれど,今続けて読むのは我慢しよう。

ワーキング・ホリデー 坂木 司

ワーキング・ホリデー 坂木 司

2020年 (文春文庫) Kindle

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元ヤンキーのホストのヤマトが,突然訪ねてきた小学五年の息子進と暮らし始める。ホストをくびになって,宅配の配達員として働き始めるヤマトと,料理も掃除も一人前にできるしっかり者の進。登場人物はみんないい人で,二人の気持ちの行き違いもしっかり解消する。安心して読むことのできる話です。

 

ハニービーズエクスプレス宅配便(っていうか,主人公がヤマトで,クロネコ便がモデルだけど)の支店の業務がよくわかるお仕事小説でもあります。コロナ騒ぎですっかり宅配便にお世話になったので,こんなにいい人ばかりが働いていると思うとすごくうれしい(妄想)。リヤカーで配達しているのをよく見かけるのですが,今日は外が35℃以上です。こんな日は冷房の効いた車で配達してほしいなと心配しています。

 

夏休みが終わって,進は母親の元に帰っていきましたが,続編『ウインター・ホリデー』があるそうで,ついポチリました。

霧が晴れた時 小松左京

霧が晴れた時 小松左京

角川ホラー文庫 電子書籍 

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小松左京の自選恐怖小説集です。、どれも相当前に読んだ覚えがあるのですが、再読でも楽しめました。「昭和」の世相を背景に、伝承や神話も題材に、SF風味も加えて盛りだくさんです。文庫本換算400ページ越えの長さですが、語り口のうまさでほぼ一気読みしました。小松さんのホラーは蘊蓄と理詰めで話が進むので、夜中に読んでいてもあまり怖くありませんでした。

 

『すぐそこ』 すぐそこだと言われながら山奥の村から出られない、帰れない物語。

『まめつま』 産後の育児に全く協力せず、余計なことしかしない夫 という著者の意図しない文脈で読みました。

『くだんのはは』 怖いという評判の作品だが、表面的にはそんなに怖くない。小松さんが「九段の母」のダジャレとして書いたという裏話を読んだことがあります。

『秘密(タプ)』 どこかの国の民俗工芸品で顔のついているやつは、飾らないようにしています。

『影が重なる時』 ドタバタから始まるも、切ない最後。印象深い作品です。

召集令状』 戦中派ならではの迫力です。戦争を忘れてはいけないというメッセージが伝わります。

『悪霊』 日本古代史の呪詛という長い蘊蓄の果てにたどり着いた恐怖は、えっ!

消された女』 想像の産物はどこまで?

『黄色い泉』 中国地方の山の中は八墓村とかあって怖いんだから(あくまで個人的感想です)そんなところで道に迷ったらだめでしょう。黄泉まであるんだから。

『逃ける』 きちんとしたオチになっていてなるほど、いい話です。

『蟻の園』 昭和の大規模団地がだんだん廃墟になっていきそうな的外れな感想を持ってしまった。

『骨』 一番深部にあったものは、未来の予測だった。星新一がつくった穴じゃないよね。

『保護鳥』 こんなのを保護していたんだ。これじゃ秘密にしたいよね。

『霧が晴れた時』 怖い怖い、あそこでおでんを食べてはいけない! キングの「ミスト」が晴れた時はもっと怖かった(映画の方ね)。

『さとるの化け物』解説によればトリスバーに置かれた非売品の冊子「洋酒天国」に書かれたそうです。バーでのしゃべりすぎはいけませんわね、特に近ごろは。