鈴木家の嘘 野尻克己
ポプラ社 2020年6月
鈴木家の長男・浩一が引きこもりの末自死し,母はショックで意識不明になった。49日に意識を取り戻したが,浩一に起きたことを一切覚えていない。父と長女は,「浩一は引きこもりをやめてアルゼンチンで働いている」という嘘をついてしまう。
家族の自死という重い深刻なテーマを陽気な雰囲気で伝えようと,ユーモアというオブラートに包んでいる。しかしオブラートの中身はやはり相当に苦い。家族による発見,混乱,自責,自罰感情,果てしない後悔が繰り返し描かれる。冒頭のソープランドの場面から軽い気持ちで読み始めたが,途中は胸を突かれる。嘘の結末をどのように付けるのか知りたくて辛い部分を読み抜けた。
しかし,叔父の結婚パーティーのドタバタから嘘がばれ,そのあとは家族による事実の受容,家族の再生へつながる物語に救われる思いだ。
図書館でたまたま見つけた本なので,映画「鈴木家の嘘」の脚本を小説化したものだということを本の奥付で知りました。「ノベライズ」というような軽いものではなく,きっちりとした小説です。そのうち映画も見てみましょう。