霧が晴れた時 小松左京
小松左京の自選恐怖小説集です。、どれも相当前に読んだ覚えがあるのですが、再読でも楽しめました。「昭和」の世相を背景に、伝承や神話も題材に、SF風味も加えて盛りだくさんです。文庫本換算400ページ越えの長さですが、語り口のうまさでほぼ一気読みしました。小松さんのホラーは蘊蓄と理詰めで話が進むので、夜中に読んでいてもあまり怖くありませんでした。
『すぐそこ』 すぐそこだと言われながら山奥の村から出られない、帰れない物語。
『まめつま』 産後の育児に全く協力せず、余計なことしかしない夫 という著者の意図しない文脈で読みました。
『くだんのはは』 怖いという評判の作品だが、表面的にはそんなに怖くない。小松さんが「九段の母」のダジャレとして書いたという裏話を読んだことがあります。
『秘密(タプ)』 どこかの国の民俗工芸品で顔のついているやつは、飾らないようにしています。
『影が重なる時』 ドタバタから始まるも、切ない最後。印象深い作品です。
『召集令状』 戦中派ならではの迫力です。戦争を忘れてはいけないというメッセージが伝わります。
『悪霊』 日本古代史の呪詛という長い蘊蓄の果てにたどり着いた恐怖は、えっ!
『消された女』 想像の産物はどこまで?
『黄色い泉』 中国地方の山の中は八墓村とかあって怖いんだから(あくまで個人的感想です)そんなところで道に迷ったらだめでしょう。黄泉まであるんだから。
『逃ける』 きちんとしたオチになっていてなるほど、いい話です。
『蟻の園』 昭和の大規模団地がだんだん廃墟になっていきそうな的外れな感想を持ってしまった。
『骨』 一番深部にあったものは、未来の予測だった。星新一がつくった穴じゃないよね。
『保護鳥』 こんなのを保護していたんだ。これじゃ秘密にしたいよね。
『霧が晴れた時』 怖い怖い、あそこでおでんを食べてはいけない! キングの「ミスト」が晴れた時はもっと怖かった(映画の方ね)。
『さとるの化け物』解説によればトリスバーに置かれた非売品の冊子「洋酒天国」に書かれたそうです。バーでのしゃべりすぎはいけませんわね、特に近ごろは。