桑潟幸一助教授の元に、とある童話作家の遺稿がもちこまれた。発表するや意想外の反響を得るのだが、遺稿は盗まれ、編集者は首なし死体で発見された。謎を追う女性ジャズシンガーに大戦の闇が迫る!・・というようなストーリーよりも何よりも、面白いのはやっぱり奥泉さんの文章です。自由にして過剰、視点の微妙なゆらぎは、ファジー文体?とでもいうのでしょうか、読んでいて気持ちのいいリズムで、この語り口はかなり好みです。
『鳥類学者のファンタジア』で饒舌な語りを聞かせてくれた、「うかつ体質」のフォギーさんもチョイ脇役として登場します。桑潟幸一助教授の(通称「桑幸」のダメ男ぶりの可笑しさは苦沙弥先生の系譜なのか)日常と妄想が境目なく交叉する伝奇小説の部分の非合理性と、ジャズシンガー北川アキと元夫諸橋倫敦の元夫婦探偵が捜査する探偵小説の部分の合理性が、殆ど交わることなく物語を進行させていきます。