「ハドリアヌス帝の回想」で、ハドリアヌスは死の床において、“ローマ式の饗宴には嫌悪と倦怠でうんざりしていて、アピキウスが作るような手の込んだ料理は素材の味が失われる”と、ローマを離れて属州を旅する時の軍隊式の簡便な食事や、ギリシャの簡素な料理を懐かしんでいました。
ローマ式饗宴や美食が実際にどんなものだったのか知りたくて、図書館の新着図書で見かけた本を読みました。料理のレシピが半分を占めていますが、単なる料理本ではなくて、食習慣、食材の調達から、生贄の儀式、調理用具、テーブルマナーまで解説されています。
載っている料理のレシピは、材料さえ揃えば実際に作れそうですが、現代の味覚にあうかどうかは保障できないというのです。アピキウスやプリニウスの文献から再現されたレシピは、出来上がりの写真がないのでイメージはつかみにくいのですが、ハーブやスパイス、香辛料のたくさん入ったソースが味の基本のようです。現在のイタリアのものとは味も見かけもだいぶ違うようです。トマトは旧世界にはなかったのですから当然ですが。
面白かったのは、食事室の床に描かれたどくろ(床に落ちたものは食べてはいけない)や、10人用の寝椅子などの食事風景。ローマ市民の食べっぷりをこの本やレシピから想像すると、食糧の供給と新たな食材探しのためにローマ帝国の版図を広げたのかと思うほど、世界各地のありとあらゆるものを食べているという感じです。