壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

錬金術師通り

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錬金術師通り 五つの都市をめぐる短編集 池内紀
文芸春秋 1993年

「本に読まれて」に書評のあった本です。書評の内容は忘れてしまいましたが、書名にひかれて図書館で借りてきました。まだ「黒の過程」錬金術をひきずっています。池内紀氏といえばカフカの研究家で、カフカプラハの生まれでした。カフカは、王城の近くの錬金術師通りに住んでいたとのこと。

ウィーン、ブラティスラヴァ、クラクフプラハ、リュブリアーナという東欧の都市で出会った奇妙な人物たちは、古い建物と、暗い歴史の深みから立ちのぼる幻想のようです。「ヴェニスに死す」の美少年が自分であるという老人、カフカの息子を名乗る人物。彼らは実在するのか、池内氏が見た幻影か、読者を惑わすフィクションか、虚実の入り混じった旅行記です。

オーストリアスロバキアポーランドチェコスロベニアは東欧という言葉で一括りにはできないでしょうが、東欧の美しい町並みと複雑な歴史は、泥臭いくらい逞しく、そして怪しげな風景を作り上げるようです。ユーラシア大陸に足を踏み入れた事がないので東欧は夢のまた夢ですが、心惹かれる場所です。