壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

道化者  トーマス・マン

道化者  トーマス・マン

海外ショートセレクション 理論社

木本栄訳 ヨシタケシンスケ絵 図書館本

YA向けのショートセレクションの三冊目はトーマス・マン。『魔の山』は中途挫折、『ブッデンブローク家の人々』は読みたいと思ってから半世紀以上が過ぎた。中編はいくつか読んだかもしれないが、はっきりと覚えていない。年とともに気力も体力も知力も後退して、YA向けに翻訳された文章がとても読みやすいが、内容はYA向けとは言えない。マン自身の若いころの体験が投影された短編が五つ。若いころの作品とは言え、人生の苦悩に満ちた話が多く、昔、自分探しをしていた頃に読んだらすごく響いたかもしれない。
これから先の自分探しは、迷子になって私は誰?此処はどこ?っていうヤツだな。

 

読んだことをまた忘れてしまいそうなので、図書館に返す前のメモ

神童」八歳の天才ピアニストのコンサート会場。見事な演奏をこなし大喝采を浴びる少年の思いと、聴衆たちの的外れな感想との対比が面白い。
少年が演奏した「夢想」はドビュッシーの作品だったのだろうか。年代的には可能だが、マンはドビュッシーの曲に出会っていたのだろうか。

道化者」裕福な父親の財産を相続して、気ままな放浪の旅ののちにドイツに戻った。社会とあえて隔絶して悠々自適に暮らしていたが満たされずに、自分の滑稽さに気が付いた。
少年時代に弾いたピアノで、嬰へ長調の和音にこだわる場面がある。「神童」でも嬰ハへの転調が出てくる。マンは音楽に堪能だったようだが、黒鍵好き? トーマス・マンといえばワーグナーか。ワーグナーにはピアノ曲もある。嬰へ長調といえばショパンの「舟歌」。嬰へ長調(=変ト長調)のドビュッシー亜麻色の髪の乙女」は時代的に間に合わない。調性の本を読んでから興味が出てきた。

堕ちる」うぶな医学生が女優に恋した。思いを遂げて彼女の部屋に通うようになる。ある日・・・ 予想される展開ではあるが、マンのデビュー作。

鉄道事故寝台列車で事故にあったという、体験談のような短編。

逸話社交界で絶大な人気を持つ妻と、地味な夫。幸せ者だと皆が思う夫の唐突な告白に驚く。仮面夫婦なのか、真相はどうなのだろう。

 

魔の山』も『ブッデンブローク家の人々』も読みたいが死ぬまでに読めるのだろうか。兄ハインリヒ・マンの『ウンラート教授』も読みたい。

本を読むたびに、読みたい本が増えていく。でも、「ああ、あの本も読みたかったなあ」と言いながら最期を迎えることは、やぶさかでない。