憂鬱な10か月 イアン・マキューアン
新潮クレストブックス 電子書籍
妊婦さんにはお勧めできません(笑)。胎児が饒舌に語り尽くす,母親と愛人による父親殺し。
扉のエピグラフにハムレットからの引用があるので,なるほどとは思う。母親の愛人が父親の弟,つまり語り手である胎児の叔父であり,この二人が父親の毒殺というよからぬ計画を立てているらしい。母親がいつも聴いているラジオやポッドキャストで世界の情勢に深い知識を持ち,哲学的な思索を繰り広げる胎児だが,実際の状況を変える手段は持っていない。唯一,母親の子宮に蹴りを入れるくらいだ。
殺人がうまくいくのか,罪が発覚しないのか,胎児が生まれることができるのか,マキューアンの語り口にじりじりさせられ,悩みを語る胎児の饒舌で大仰な語りも面白くて退屈しなかった。こういう辛辣な笑いは好きだなあ。
マキューアンの作品は二作目です。『土曜日』を読んだときは自分が大変な状況だったのでいい思いがなく,10年以上マキューアンを避けていました。でもこんなにぶっ飛んだ小説を書く作者ならもう少し読んでみたいけど,新潮クレストブックスは活字の色が薄くて,加齢とともに読めなくなりました。活字が黒々としているのは“お洒落”じゃないかもじれないけれど,読みやすいのが一番だからね,新潮さん。もっと電子版を出してください。