壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

日本を襲ったスペイン・インフルエンザ 他一冊

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日本を襲ったスペイン・インフルエンザ 2006年 
速水 融
藤原書店 4200円

鳥インフルエンザに由来する新型インフルエンザの流行がささやかれる今、大正時代のスペイン風邪の日本の実態を知りたいと思っていました。この本はまさにうってつけ。

大正7年と8年に二回大流行があり、前流行の罹患率4割、死亡率1パーセントであるのに比べ、後流行では罹患率は低いが、死亡率が高く、合計45万人もの死亡者がでている。(超過死亡から計算するとこの値。従来の統計では38万人)
軍隊 学校 工場などを中心に蔓延し、火葬場が間に合わないような状況があったのだそうです。僻地や離島に入った場合には、一つの村が全滅したこともあったらしい。このようなことを当時の新聞記事を使って克明に述べてあります。軍隊の厩舎の馬にも感冒が広がったとか、ニワトリが産卵しなくなって鶏卵の値段が上がったとか言う事実は、とても不気味な感じです。

新型インフルエンザのためにタミフルを備蓄しながらも、現在のインフルエンザ治療にタミフルをどんどん使ってしまう日本の医療っていったいなんでしょう。世界に先駆けてタミフル耐性ウイルスをつくってるのかしらと思います。

どこかの国で、鳥インフルエンザ予防のため、ニワトリにタミフルとかアマンダジンとか与えてないことを祈ります。

当時のインフルエンザウイルスの型がH1N1であることを突き止めた話は、「4000万人を殺したインフルエンザ スペイン風邪の正体を追って」Pデイビス 高橋健二訳 文芸春秋 1999年 にあるそうです。おもしろそうなので、そのうち読みます。

そういえば「レナードの朝」オリバーサックス著に出てきた嗜眠性脳炎は、確か、このスペインインフルエンザの後遺症といわれていたような気がします。

日経サイエンス2005年3月号に、このウイルスの分離の話があるらしいのでネットで探したら、原著の Scientific American (2005) 292 62 Capturing a Killer Flu Virus BY JEFFERY K . TAUBENBERGER, tet al のPDFがネット上に落ちてたので読みました。ときどきこういうものがなぜか無料で読めるのです。 1918-19年当時の死者の病理組織や永久凍土層にある墓の遺骸から当時のウイルスの全ゲノム配列を得たとのこと。前流行と後流行のウイルスの変化はまだわかっていないそうです。

こういう《病と人間の歴史》は14世紀のペスト、15世紀の梅毒、19世紀のコレラ、20世紀の天然痘撲滅、20世紀のエイズを題材にした 研究書 フィクション ノンフィクションなどさまざまあります。

この際だから、積読してあった「世界史の中のマラリア」一微生物学者の視点から 1991年 橋本雅一 藤原書店 2800円 を速読しようとおもいたちましたが、やはりこの本は読みにくい。微生物学者である著者がマラリアの蔓延地から帰国した後、続けて薬を飲まなかったため、日本で発病した話は笑えたが(失礼!)、世界史の概観を持たないものにとっては、速読できませんでした。ただ日本のマラリアの部分はおもしろかった。第二次大戦中と戦後のマラリアについてと、著者自身のナイジェリアでの体験は興味深い。