壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

ベルリン・コンスピラシー  マイケル・バー=ゾウハー

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ベルリン・コンスピラシー  マイケル・バー=ゾウハー
横山啓明訳 ハヤカワ文庫 2010年 940円

バー=ゾウハーの15年ぶりの新作だそうです。

アメリカ在住の老ユダヤ人実業家は、決して足を踏み入れまいとしていたはずのベルリンのホテルで目覚めた。そして62年前の殺人事件の容疑者として逮捕された。復讐のため仲間と五人の元SS将校を殺した罪だった。

スパイ小説と銘打ってはいても、冷戦時代のわかりやすい対立関係はもう成り立たないわけで、謀略の背後関係が解き明かされる過程がミステリになっています。

アメリカとイスラム世界を取り巻く情勢、ネオ・ナチが台頭するドイツを舞台に、過去の出来事を清算することのできないホロコースト被害者の老ユダヤ人ルドルフ、その息子で自由な思想を持つギデオン、複雑な過去をもつベルリン州検察官マグダなど、厚みのある人物が登場します。ナチスというありふれた題材だけれど、バー=ゾウハーの描くものには重みがあり、かつエンターテインメントとしてもすぐれています。

ルドルフの最後の場面は、愛国主義的な傾向が復活するヨーロッパに対する警鐘になっています。ノルウェーのテロ犯は個人なのかどうかわかりませんが、そういう存在を許すような傾向がどこかにあるんでしょうね。