横道世ノ介、名前は変わっているけれど、ごくふつうの青年。大学入学のため上京したばかりの純朴な18歳。人懐っこくて、人がいい。断りきれずにサンバサークルに入ってしまう。東京の雑踏にもまれながらもマイペースで、なんとなく影が薄い。
そんな世ノ介の一年間を追いながら淡々と話が進み、二十年後の登場人物が世ノ介をかすかに思い出して回想するシーンが時折、はさまります。今まで読んだ
吉田修一の作品
からして、どこかで足をすくわれるのではないかと構えて読んだのですが、最後まで「いい話」でした。青春をすごした時代は異なってもなぜか懐かしさがこみ上げ、ほのぼのしてしまう、ありそうでなさそうな「現代のおとぎ話」でした。