壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

CO2と温暖化の正体 ウォレス・S・ブロッカー、ロバート・クンジグ

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CO2と温暖化の正体 ウォレス・S・ブロッカー、ロバート・クンジグ
内田昌男監訳  東郷えりか訳 河出書房新社 2009年 2400円

地球温暖化関連本は数多くあるけれど、面白く読めてその上偏っていない本は少ない。偏りと面白さは一体となっていることが多いからだ。かといって、いかにもセンセーショナルな題名の本も読む気にはなれないし、網羅的な解説書は面白くなく、また新書程度の量では物足りない。この本、邦題は『CO2と温暖化の正体』と地味だけれど、原題は『Fixing Climate: What Past Climate Changes Reveal About the Current Threat--and How to Counter It』となかなか意欲的だ。著者の一人は熱塩循環の第一人者ブロッカーらしい・・・・・・・と新着コーナーで見かけたときに直感的に面白そうだと思ったのは、後で考えてみればこんな事だったと思う。

こういう直感は外れることが多いのであえて記しておくが、読み終えてみれば予想通り面白い本だった。もう一人の著者はポピュラーサイエンスのライターである。共著者のブロッカーについては他の科学者同様に三人称で述べられていてバランスのとれた視点を保っている。ネヴァダグレートベースンにあるピラミッド湖の場面からブロッカーの伝記のような始まり方をするが、しだいにブロッカーの同僚や研究仲間が現れて自然と古気候学の研究史になっていく。さらに温暖化を含んだグローバルな気候メカニズムの大筋が解説されている。

ブロッカー自身は地球温暖化問題の懐疑派でも急進派でもなくIPCCを闇雲に信奉しているわけでもないが、これまでの地道な研究から、気候というものは気分が大きく揺れ動く気むずかしい野獣であるという見解を持っている。地球史における非常に緩やかに進む大きな変動以外に、なにかのスイッチで唐突に大きく変動する可能性があるという。

第12章の最後から引用しておこう。地球温暖化が大干ばつを引き起こすという証拠はないし、ついでに言えば、突然の海面上昇を引き起こす証拠もない。あるのはただ常識と、たとえ話にもとづく、筋の通った議論だけだ。太陽やミランコヴィッチ周期によってほんの一押しされるだけで、地球の気候が過去に、大干ばつをはじめとする極端で唐突な気候変動を起こしうることをわれわれは学んだ。気候を大きく押しやるようなことは避けたほうが賢明と思われる。傾きやすいカヌーに乗っているときは、踊るべきではない。(中略)怒りっぽい野獣とともに暮らしているなら、鋭い杖で突くべきではない。

人類が排出し続ける二酸化炭素は、気候という野獣を突く鋭い杖になるかもしれない。その二酸化炭素を手っ取り早く大気中から除去する方法についても解説されている。根本的には化石燃料以外のエネルギー源が開発されればいいのだが、今世紀の半ばまでには間に合いそうもないので、二酸化炭素のための下水設備に相当するものを作るべきだという主張である。二酸化炭素を大気中から回収して炭酸塩として固定し地中なり水中に隔離するという。あくまでも経過的措置ではあるけれど、技術的に可能で経済的に見合えば実施されるかもしれないとは思う。

日本が(というより日本の首相が)最近掲げた「温室効果ガス25%削減」という目標が達成可能なのか私にはわからない。個人のレベルではエコノミーとエコロジーは相反しないのに、グローバルなレベルでは単純な関係にはない。でも排出権取引というものがどうも胡散臭く思えてしょうがないのだ。現在の化石燃料文明の終焉がそのまま人類の悲惨な終焉にならないように願うばかりである。・・・で、ネヴィル・シュートの『渚にて』を読みたくなった。