壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語 エドガー・アラン・ポオ

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ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語 エドガー・アラン・ポオ
阿部知二ほか訳  ポオ全集東京創元新社 1970年 2500円
 
なかなか読み終わらなくて、一週間ぶりの更新になってしまいました。

「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」を読みたくて、ひどく古くて厚くて字の小さい本を借りました。他に1833-1840年までのポオの26篇の中短編小説が収められています。こういう機会は二度とないでしょうから、通読しました。ハリー・クラークの挿絵も数葉あり、当時の2500円はかなり高価だったはずです。

下記リストのうち、記憶にある既読の作品は「壜のなかの手記」「アッシャー家の崩壊」のたった二つです。ポオといえば怪奇幻想とミステリという印象しかもっていませんでしたが、SFやユーモア小説、冒険小説と多彩な作品があって、改めてポオの多才さと後世の物語に与えた影響の大きさに思い至りました。

お目当ての「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」は長編冒険小説。
主人公アーサー・ゴードン・ピムは友人オーガスタスの父親が船長を務める帆船グランプスに密航して捕鯨航海に出た。水夫たちの反乱、さらに嵐によって難破し漂流すること一ヶ月。やっとジェイン・ガイ号に拾われたが、この船は南極海に浮かぶ島々を巡る貿易船だった。後半、島々を巡りさらに南氷洋を探索して、土民の島にたどり着き、不思議な洞窟を発見。さらにそこで囚われかけてなんとか脱出するも、カヌーで向かった先はさらに南の海であった。

密航して隠れている間に食糧が不足し飼い犬がピムを襲う気配をみせるあたりが怖かった。大西洋を漂流する場面で万策尽きて四人いた仲間の一人(リチャード・パーカー)をくじ引きで食糧にするのですが、なんとそのあとで船内に残っていた食糧が見つかるというやりきれないストーリーにひどい皮肉を感じます。ベンガルトラの「リチャード・パーカー」というヤン・マーテル『パイの物語』は、これを下敷きにしたものだったのですね。(縞猫さん、教えていただいてありがとうございます。)

漂流の様子が延々と語られる前半がリアルな物語なのに比べ、後半は南極における不思議な物語です。土民の島に流れる川の水の不思議なこと!刊行当時(1837-38)南極大陸は未発見で、南氷洋の探検が盛んになされていた時代ですから、南へ進んでいくにつれて気温が上がり、ピムのカヌーが白い水蒸気の瀑布につっこんでいくところで突然に終わる話(最後の二章分が失われたという設定)は、当時の読者の想像を掻き立てたにちがいありません。続編といわれるジュール・ヴェルヌの「氷のスフィンクス」を借りてあります。

その他短編
「壜のなかの手記」 「ベレニス」 「モレラ」「ハンス・プファアルの無類の冒険」「約束ごと」 「ボンボン」「影」 「ペスト王」「息の喪失」「名士の群れ」 「オムレット公爵」「四獣一体」「エルサレムの物語」「メッツェンガーシュタイン」「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」「リジイア」 「鐘楼の悪魔」 「使いきった男」 「アッシャー家の崩壊」 「ウイリアム・ウィルソン」 「沈黙」 「ジューリアス・ロドマンの日記」 「実業家」 「群衆の人」 「煙に巻く」 「チビのフランス人はなぜ手に吊繃帯をしているのか?」

「ハンス・プファアルの無類の冒険」は気球で月世界に到達した男の物語。大気が薄くなっても気球が上昇し続けるという科学的根拠?がのべられているSF。「ベレニス」「モレラ」「リジイア」はどれも美しい愛人の死と残された身体の一部の物語。「約束ごと」は ハリー・クラークの挿絵(ページ上)のような、ヴェネツィアの耽美。「ペスト王」「息の喪失」のグロテスク、「名士の群れ」「オムレット公爵」の風刺、哲学者と悪魔の契約を描く「ボンボン」の滑稽。のろわれた馬の復讐を描いた「「メッツェンガーシュタイン」はホラーなどなど、多種多彩な作品を続けて読んで目が回ったせいか、読了に一週間もかかりました。