壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

イエメンで鮭釣りを ポール・トーディ

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イエメンで鮭釣りを ポール・トーディ
小竹由美子訳 白水社エクス・リブリス 2009年 2500円

ウッドハウスにちなんだ賞を受賞したという、とっても面白くてちょっとほろ苦い、イギリスのユーモア小説です。砂漠の涸れ川に鮭を遡上させようというトンでもない『イエメン鮭プロジェクト』の顛末が、Eメール、手紙、日記、新聞記事などの文書によって明らかにされるというもの。この計画に巻き込まれた人々の悲喜劇が描かれます。

国立水産学研究所のフレッド・ジョーンズ博士は、研究者としては優秀ですが世間知らずの堅物。イエメンの富豪シャイフが夢見るような『鮭プロジェクト』は不可能だと断ったはずなのに、首相官邸の政治的思惑に押し切られて、いつの間にかプロジェクトにのめりこんでいきます。

目次が妙に硬い文章になっていると思ったら、この本全体が『外務委員会による下院の建白書に関する報告およびイエメンに鮭を導入するという決定(イエメン鮭釣りプロジェクト)をめぐる諸事情ならびにその後の事象に関する報告の抜粋』という体裁をとっています。

当のフレッドを始め、フレッドの妻メアリ(キャリアウーマン)、官邸広報担当官ピーター・マクスウェル(スノッブ官僚)、フレッドの上司(オポチュニスト)、神がかり的富豪シャイフと、カリカチュアライズされた登場人物がまた面白い。

でも面白いドタバタに加えて、人生の妙味を感じさせる内容を持っています。イエメン人シャイフの説く「信じること」の不思議な力を感じることができ、失敗しても挫折してもまた何かの希望があるような、なぜかホッとする読後感でした。