壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

廃墟建築士 三崎亜記

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廃墟建築士 三崎亜記
集英社 2009年 1300円

初めての三崎亜記作品です。評判が高いのでかえって「となり町戦争」などを敬遠していたのですが、四作の短編のうちに「図書館」が入っているということで、これは読まねば・・。四編とも建物系SFです。

ビルの7階での犯罪発生率がわずかばかり高いので、市は街からすべての七階を撤去するという『七階闘争』。(都合の悪いものを根拠なく排除しようというお役所の短絡的な発想も、七階に強い愛着を持つ人たちがそれに対抗する方法も、ありふれた題材がシュールな世界へと滑り込んでいくところがみごと。)

廃墟を新築する『廃墟建築士がもてはやされるのは、廃墟こそ文化の成熟度をあらわすものだという国際基準があるからだった。廃墟三流国であるわが国を先進国たらしめるため、廃墟偽装まで行われる。(世界遺産認定に奔走する世情が微かに皮肉られているような気がします。廃墟建設の過程をもっとしつこく濃密に描いたらミルハウザーのようになるかもしれませんが、三崎さんはあっさりと和風テイストです。)

『図書館』はかつて野生のものだった。それと折り合いをつけて夜間公開をするため、図書館調教士が派遣された。(夜の図書館の風景はすごく楽しい。マングェルの「The Library at Night」にだってこんな風景はありません^^。しかし本たちが羽ばたくというのは、スラデックとか、わりとありふれた発想だと「本から始まる物語」を思い出してみたら、ここで三崎亜記さんの「The Book Day」をすでに読んでいることが判明。そこでも本が羽ばたいていました。初めてではなかったんだ・・・^^;。)

蔵の意識とそれを守る『蔵守』の意識が重なり合うように語られる。(よくわからない不思議な世界ですが、これが最も気に入りました。蔵の中に何が保管されていたのか、どうせなら最後まで分らなくてもよかったのに。)