壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

幻影の書 ポール・オースター

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幻影の書 ポール・オースター
柴田元幸訳 新潮社 2008年 2300円

現代アメリカ文学は何故か『読まず嫌い』、オースターは初めてです。図書館の新刊本棚に並んでいなければ読まなかったかもしれません。・・・・ところが、なんと面白くて感動的ですらありました。

語り手デイヴィッド・ジンマーは、妻子を飛行機事故で亡くして、社会から隠遁し自分自身を閉じ込めてしまった。しかし、ヘクター・マン監督主演の無声映画に唯一救いを見出し、一冊の本を書き上げました。そして、失踪して生死不明のヘクター・マンが生きていると、妻フリーダと名乗る女性から連絡がありました。

話の展開はかなりスリリングです。ヘクターのその後の生涯と公開されること無く製作された映画、ヘクターの伝記を執筆中のアロマ、そしてフリーダの人生が、語り手ジンマーの人生と幾重にも重なってみえてきます。さらに、ヘクターの映画作品、その映画の中で書かれた作品、ジンマーの著作、アロマの伝記が積み重なって複雑な印象をもたらします。ジンマーの味わう強烈な喪失感に身をすくめるように読みました。それは最後まで消え去ることはなかったけれど、再生や希望が微かに見出されます。

オースター、巧いです。次は何を読もうかしら。