壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

〈眠り病〉は眠らない  山内一也 北潔

イメージ 1

〈眠り病〉は眠らない 日本発!アフリカを救う新薬 山内一也 北潔
岩波科学ライブラリー 2008年 1200円

世界中に常時30万人の患者がいる感染症の特効薬があるとしたら、製薬会社は大きなビジネスチャンスと考えるはずなのに、研究開発がほとんど行われず新薬が開発されない『見捨てられた病気』があります。その一つが〈眠り病〉。赤道アフリカで、ツェツェバエによって媒介されるトリパノソーマ原虫によって引き起こされる病気です。人間だけでなく牛などの家畜もこの原虫による感染で命を落とすため、経済発展にも深刻な影響があり、貧困の原因とさえなっています。

眠り病は、アフリカの限られた地域で流行していた風土病でした。植民地化とともに広がり大流行を引き起こしましたが、国際協力によって1960年頃にはほぼ制圧されました。ところがアフリカ諸国の脱植民地化が新たな患者の発生を招き、近年、再燃しています。

それなのになぜ『見捨てられた病気』なのか?これらの病気は熱帯で起きる寄生虫感染症で、患者たちのほとんどが貧困で購買力がなく、保健システムが機能しない貧しい政府にもその力がないために市場性がありません。だから製薬会社は興味を持たず、病気の研究のための投資が行われずに見捨てられていたのです。しかし、二十一世紀に入ってやっと見捨てられた病気への対策がWHOなどの国際機関によって推進されはじめました。その中で、日本で開発されたアスコフラノンという薬が〈眠り病〉治療薬として注目されているそうです。
イメージ 2
トリパノソーマは、血液中では人間とはまったく異なる特殊な呼吸を行うので、そこが治療薬のターゲットです。注射器を使いまわしするような地域なので、飲み薬でかつ短期間のうちに治療できる安価な薬剤が求められているそうで、アスコフラノンの実用化が待たれます。