壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

不連続の世界 恩田陸

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不連続の世界 恩田陸
幻冬舎 2008年 1600円

音楽プロデューサー塚崎多聞をめぐる5つの短編。塚崎多聞は「月の裏側」の登場人物ということです。「月の裏側」については、丈夫なゴム長靴を欲しくなったこと以外ほとんど覚えていません。

二十代後半の多聞が都会の川べりで出会った『木守り男』の正体は不明ですが、不思議なものを呼び込む多聞の雰囲気がよく出ています。

「死にたくなる音楽」の謎を追ってN市の旧家を訪れた多聞は、ある音楽を探し当てたのですが、それよりもさらに怖くて気味の悪い真実でした。多聞は『悪魔を憐れむ歌』を聴いたということなのでしょうか、謎を謎のままにしておけるのは、こだわりがないからか、懐が深いからか。

『幻影キネマ』は、メジャーデビュー前のバンドのメンバー、杉原保が抱える悩みを解決する四十代半ばの多聞。怖い話だけれど、珍しくすっきりと解決しています。

楠巴という友人と砂丘ピクニック』を目的にT市を訪れた多聞は、砂丘消失の謎を思索します。この謎解きは寺田寅彦風。人間消失のほうはおまけ。

『夜明けのガスパールで、四国に向かう夜行列車の中、三人の友人と共に「怖い話」をする多聞の妻は行方不明らしい。多聞の四十代半ばという年齢から考えると意外な展開でしたが、人間性が垣間見えてとてもいい作品でした。



多聞があの運河の街に行ったのはいつごろのことだったのか?「月の裏側」をどうしても読み返したくなったのですが、手元にはありません。最後の「夜明けのガスパール」がとっても面白かったので、ラベルの「夜のガスパール」を聴き、さらに物置に筒井の「朝のガスパール」を探しに行きました。かなり的外れの代償行為です。