音楽プロデューサー塚崎多聞をめぐる5つの短編。塚崎多聞は「月の裏側」の登場人物ということです。「月の裏側」については、丈夫なゴム長靴を欲しくなったこと以外ほとんど覚えていません。
二十代後半の多聞が都会の川べりで出会った『木守り男』の正体は不明ですが、不思議なものを呼び込む多聞の雰囲気がよく出ています。
「死にたくなる音楽」の謎を追ってN市の旧家を訪れた多聞は、ある音楽を探し当てたのですが、それよりもさらに怖くて気味の悪い真実でした。多聞は『悪魔を憐れむ歌』を聴いたということなのでしょうか、謎を謎のままにしておけるのは、こだわりがないからか、懐が深いからか。
『幻影キネマ』は、メジャーデビュー前のバンドのメンバー、杉原保が抱える悩みを解決する四十代半ばの多聞。怖い話だけれど、珍しくすっきりと解決しています。
『夜明けのガスパール』で、四国に向かう夜行列車の中、三人の友人と共に「怖い話」をする多聞の妻は行方不明らしい。多聞の四十代半ばという年齢から考えると意外な展開でしたが、人間性が垣間見えてとてもいい作品でした。