壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

追憶のハルマゲドン カート・ヴォネガット

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追憶のハルマゲドン カート・ヴォネガット
浅倉久志訳 早川書房 2008年 2000円

未発表の短編集です。第二次大戦を材にとったものが多くて、戦後にお蔵入りになった作品もあるとか。長編とはだいぶ雰囲気が違います。ヴォネガットの長編はとらえどころがなくて苦手だったけれど、なるほどこういう人物だったのですね。『文明への嫌悪』というヴォネガットの言葉がなんとなく分ったような気もします。「スローターハウス5」を購入したまま未読ですので、いつかそのうち読みましょう。

カート・ヴォネガット上等兵が家族に宛てた手紙」
捕虜になっていたのを開放されたという報告。これは本物らしい。

「二〇〇七年四月二十七日、インディアナポリス、バトラー大学のクラウズ・ホールにおけるカート・ヴォネガット
死後に息子マークによって代読されたスピーチ原稿だそうです。こんな冗談ばかりのスピーチは、アドリブではなく、実に周到に用意されたものだったのですね。

「悲しみの叫びはすべての街路に」
ドレスデンの爆撃についての体験談&エッセイ。とてもストレートな表現で、ヴォネガットの原点?

「審判の日」
少年兵が第二次大戦の戦場にタイムスリップして見たもの。

「バターより銃」
捕虜のアメリカ兵三人が飢えを紛らわせるため、料理の詳細なレシピを語り合う。グラス「玉ねぎの皮をむきながら」にも捕虜たちの料理話があったけれど、ずいぶんと違うテイスト。

「ハッピー・バースデイ、一九五一年」
戦場の廃墟の地下に、仲良く隠れ住む老人と少年。老人の思いは六歳の少年には伝わらない。

「明るくいこう」
ドレスデン捕虜収容所で、生存技術に長けた男のしたたかさには笑えます。

「一角獣の罠」
恐怖公ロベールの支配する11世紀イギリスの村で、「一角獣の罠」を仕掛けた息子に対する父の愛情。

「無名戦士」
ミレニアムに生まれた赤ん坊に対する、ずいぶんと身勝手な世間の行為。

「略奪品」
捕虜のアメリカ兵が略奪行為の間に経験したこと。ちょっといい話。

「サミー、おまえとおれだけだ」
捕虜収容所で出会ったジョージ。なるほどのオチで面白い。

「司令官のデスク」
アメリカに開放されたチェコの家具職人の話。これはびっくりのオチで、いいですね。

「追憶のハルマゲドン」
世界の悪は悪魔のせいであると主張する実業家の建設した研究所。成り行きでハルマゲドンを招いたとされる事件の真相。最後の一行を先に見ないように。