壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

怖い絵2 中野京子

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怖い絵2 中野京子
朝日出版社 2008年 1800円

「怖い絵」続編です。怖い絵に隠されたもっと怖くて面白い事実。描かれた小道具一つ一つの意味を知り、まじまじと絵を眺め、ネットで検索して、何倍も楽しめました。

例えばレンブラントの『テュルプ博士の解剖学実習』。登場人物たちは、遺体の足元の書物を覗き込んでいるという設定ではあるものの、みなの顔の向きがいささか不自然な感じですが、実はこの絵が依頼されて描いた「記念集団肖像画」であったためだということ。

当時富裕層の間では肖像画が流行したが、グループ肖像画であれば画料の節約になるということで、集団肖像画も流行したそうです。外科医ギルドが依頼した絵は、記念写真のような平板さを排したドラマチックな仕上がりになって、レンブラントの名を世に轟かせることになりました。

作品1 レンブラント『テュルプ博士の解剖学実習』
    博士>外科医>>犯罪者というヒエラルキーと死体のモノ化の恐怖

作品2 ピカソ『泣く女』
    愛人の激しい嫉妬の涙を芸術の糧とするピカソ

作品3 ルーベンス『パリスの審判』
    中空に漂うのは物語の行く末を暗示する復讐の女神アレクト

作品4 エッシャー『相対性』
    寓意的解釈を拒んだエッシャーの階段は異世界を結ぶ

作品5 カレーニョ・デ・ミランダ『カルロス二世』
    あまりにも濃い血が生んだスペイン・ハプスブルク家最後の国王

作品6 ベラスケス『ラス・メニーナス
    カルロス二世の姉マルガリータ王女に仕えるもの

作品7 ハント『シャロットの乙女』
    マインドコントロールの解けた女への恐れ

作品8 フォンテーヌブロー派の逸名画家『ガブリエル・デストレとその妹』
    毒殺後の絵に描かれる緑色の棺

作品9 ベックリン『死の島』
    糸杉は死の樹。美しい死への憧れ

作品10 ジェラール『レカミエ夫人の肖像』
    流行の下着ファッション。おしゃれはいつも寒い。

作品11 ボッティチェリ『ホロフェルネスの遺体発見』
    凄惨な美のトルソを描くための首無し。

作品12 ブレイク『巨大なレッド・ドラゴンと日をまとう女』
    解説されるともっと怖い。

作品13 カルパッチョ『聖ゲオルギウスと竜』
    死屍累々の大地が意味するもの

作品14 ミレー『晩鐘』
    ダリをあれほどまでに刺激したミレーの静謐とは

作品15 ドラローシュ『レディ・ジェーン・グレイの処刑』
    美しさゆえの戦慄

作品16 ホガース『精神病院にて』
    見物料をとる観光名所だった

作品17 ブリューゲルベツレヘムの嬰児虐殺』
    塗り替えられた絵(嬰児は袋になった)

作品18 ヴェロッキオ『キリストの洗礼』
    天才を見抜いた一流画家の断筆(左端の天使はダ・ヴィンチの筆)

作品19 ビアズリーサロメ
    世紀末の悪女幻想

作品20 ファン・エイク『アルノルフィニ夫妻の肖像』
   顔のもつ圧倒的な迫力

そういえば、レンブラントの『テュルプ博士の解剖学実習』の解剖された死体の左手は、実は右手?という話が『土星の環』にありましたが、この本で取り上げられていたのは、当時解剖は痛みやすい内臓からはじめるのが普通で、手からの切開はありえないということ。ネットで見ると、左手に見えないのは解剖されてつまみあげられた筋が違っているとか合ってるとか議論があるらしいけれど、いろんな研究があるものですね。