壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

サウスバウンド 奥田英朗

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サウスバウンド 奥田英朗
角川書店 2005年 1700円

小学生の男の子の視点からの語りですが、現代の大人のためのお伽話です。わくわくする楽しい話の結末は、全開のハッピー・エンドではないにしても、南の海への旅立ちは、いつもユートピアへの予感です。平成の「さくらと一郎」は楽園にたどり着いたのかなぁ。

小学六年の上原二郎の家族は、父一郎、母さくら、姉洋子、妹桃子の五人暮らし。過激派の元活動家の父は、いまだに気持ちはアナーキスト。国家と権力が大嫌いで、国民の三大義務を果たしていません。勤労はせず(いちおう作家らしい)、当然納税はせず、子どもたちには「学校なんて無理して行かなくていいからな」と教育の義務も放棄しています。我が道を行く父に翻弄される家族は、半分あきらめ顔。ある日、突然南の島に移住し、電気もガスも水道もない生活が始まって、家族の関係が少しずつ変化していきます。畑を開墾し漁に出る父を見ているうちに、二郎は父に尊敬の念さえ抱くようになったのです。

南の島でのドタバタを通して家族の絆が強まっていくのが、読んでいて好ましく、久しぶりにリラックスできました。ベストセラーだったのも、映画になっていたのも今頃知りましたが、図書館で未だに予約の行列ができているのに納得です。