壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

ワトスンの選択 グラディス・ミッチェル

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ワトスンの選択 グラディス・ミッチェル
佐久間野百合訳 長崎書店 2008年 2200円

TVドラマとして日本に紹介されたブラッドリー夫人シリーズをまったく知りませんでした。グラディス・ミッチェル(190l-1983)は英国の作家で、クリスティーと比較されるけれど作風はまったく異なり、自由奔放で突拍子もないブロットやパロディが出てくるらしい。ブラッドリー夫人は祖先が魔女だという心理学者という設定。

ブーン卿の屋敷で催されるシャーロック・ホームズ・パーティーに招待されたブラッドリー夫人と秘書のローラは、ホームズの登場人物に仮装するためにあれこれ楽しそうに議論しています。ローラはアイリーン・アドラー(『ボヘミア王家の醜聞』)か、エフィー・マンロー(『黄色い顔』)にするか迷っています。ブラッドリー夫人は、はじめからファリントッシュ夫人に決めています。

ファリントッシュ夫人は『まだらの紐』で、ホームズに相談するようにヘレン・ストーナーに勧めた友人だそうで、『ファリントッシュ夫人のオパールの髪飾りに関する事件』はまだ書かれていない事件として有名だそうです。仮装した招待客と使用人が参加したパーティで行われたクイズもホームズの『冒険』と『回想』にちなんだものの宝探しゲームです。そしてダンスが始まってまもなく、部屋に燐光を放った大きな黒い動物が現れて・・・・・

バスカヴィル家の犬くらいは分かるけど、あとは超マニアックでとてもついていけませんでした。でも「ファリントッシュ夫人」をネット検索すると、多数ヒット!! シャーロキアンって多いんですねぇ。

物語の舞台は結構ドラマチック、登場人物は少々エキセントリックだけれども、筆運びは実に淡々としたもので、センセーショナルなところがひとつもありません。ブラッドリー夫人も事件の展開に動ずることなく、すべてお見通しみたいな感じです。

でも退屈しないくらいのユーモアがあって、時には、意外な展開に興味を引かれるのですが、あとで考えると、あれは伏線じゃなかったの?と、ミスリードでもないような放置された展開にびっくり。論理による天才的洞察力のホームズも真っ青の、ブラッドリー夫人の超能力のような洞察力にも驚き。でもちょっとしたパロディみたいで面白いです。

1929年から1984年までに出版された66編すべてブラッドリー夫人が探偵役で、邦訳された作品はたった数点です。1955年に出版された本作で、黒い瞳と鈎爪のような指を持つ老婦人として描かれるブラッドリー夫人は、半世紀の間変わらぬ姿なのか気になります。だとしたらそのマンネリズムは好きです。初期の作品で早速確かめねば。