壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

谷中、花と墓地 エドワード G.  サイデンステッカー

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谷中、花と墓地 エドワード G.  サイデンステッカー 
みすず書房 2008年 2400円 

昨年亡くなられた日本文学の研究者サイデンステッカー氏の日本語による34編のエッセーです。一年の二、三ヶ月を湯島で暮らし、日本の庶民の文化をこよなく愛した氏は、湯島天神の梅を観て、藤は亀戸、牡丹は上野の東照宮躑躅根津権現へと散策の足を伸ばします。六月の花菖蒲は明治神宮よりも、堀切と水元公園のほうが趣があっていいといいます。そして、独りの花見は谷中の墓地に限ると。

日本語で出版するものであっても、英語で書いたものを翻訳してもらうというのが、サイデンステッカー氏の常だったそうですが、ここに集められたものはタウン誌に連載されたもので、氏が手書きで書いたのだそうです。のびのびと明解で、読んでいて心地よい文章です。失われつつある江戸の風情を、東京の中に見つけて楽しんでいるようでした。

小津映画を愛し、京都の町は好きになれないと、湯島に永住を決意したばかりだったのに、とても残念なことでした。