壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

限りなき夏 クリストファー・プリースト

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限りなき夏 クリストファー・プリースト
古沢嘉通編訳 国書刊行会未来の文学第Ⅱ期)2008年 2400円

デビュー作から近作まで、日本オリジナル短編集です。プリーストも五冊目になると、その叙述トリックに如何にうまく引っかかろうかと、注意深く読みました。上手に引っかかるというのはつまり、「やられた!」とは思いながらも、「ああ、あの部分がやはり伏線だったのね。」とつぶやいてみたいということです。しかし、この八編の短編では、「やられた感」は一編だけかな。仕掛けがなくても、プリーストの描写力の確かさ(と訳文のすばらしさ)で、美しく懐かしい情景、恐怖に満ちた彷徨、幻想のような風景を充分に楽しめます。

1940年8月、テムズ河畔に過去と未来が、そして現在が溶け合う。永遠に静止した恋人たちの『限りなき夏』(1976)。少年の日の淡い恋と、青年の日の熱い思いと、中年の日の悔恨が交差する、ロマンチック・タイムトラベル『青ざめた逍遥』(1979)。

デビュー作『逃走』(1966)は終末もので、緊迫感あふれる。観測所という外界から閉ざされた場所で長く暮らす者を描いた『リアルタイム・ワールド』(1972)は、これ(ネタバレ)を髣髴とさせる。

後半の四編は「夢幻群島」The Dream Archipelago での出来事として、ゆるく関連している。『赤道の時』(1999)では、戦争が長く続き、時間が螺旋状に渦をまく世界が簡単に説明されている。以下の三編は絵画を見るような幻想と官能の物語。
『火葬』(1978)怖い・・ゲェー、オェー・・(たいへん失礼いたしました)。
『奇跡の石塚』(1980)(朽ち果てた塔に棲むものは、なんだったのか。)
『ディスチャージ』(2002年)記憶喪失者のオデッセイア。(Dischargeとは 退院、解雇、除隊、分泌、放出、排出、遂行、借金返済、発砲、発射、赦免 by 英治郎)