壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

焼かれる前に語れ 岩瀬博太郎 柳原三佳

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焼かれる前に語れ 岩瀬博太郎 柳原三佳
WAVE出版 2007年 1500円

司法解剖医が聴いた、哀しき「遺体の声」』という副題で、海堂尊「死因不明社会」の文献に挙がっていたものです。趣旨は同じように、日本は変死に対して解剖率が低く、検死システムそのものが前近代的であるため、死亡原因が特定されない例が多いということ。よって保険金殺人のような犯罪が表に出ず、冤罪がはっきりと証明されないというような、社会的な不利益があるということです。

警察医の7割が、日本の死因統計は信用ができないと考えていると聞くと、とても先進国とは思えないほどの後進性を感じます。変死のほぼ100%が解剖されるウィーンの事情と比べてみると、その差は歴然としています。ウィーンでは非犯罪と考えられたものの内1-2%に犯罪性が認められるそうで、表面的な日本の治安のよさもまた信用できなくなりました。身体観とでもいうんでしょうか、臓器や解剖に対する考え方の違いも大きいのですが、これは宗教の違いというよりは歴史的経緯の違いのようです。

現役の法医学者(岩瀬博太郎)の視点でノンフィクション作家(柳原三佳)が書いたもので、柳原三佳さんの文章はわかりやすいだけでなく、一貫して岩瀬博太郎さんの視点が保たれているので、とても読みやすいものになっています。岩瀬さんは検死に実際にCTを導入した千葉大法医学教室の教授で、合理的思考の持ち主。(例えば予算不足のため中古のCT搭載車を、七天王塚の祠の隣に設置するときの話なども面白い。)具体的な事例も豊富です。