壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

すべての終わりの始まり キャロル・エムシュウィラー

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すべての終わりの始まり キャロル・エムシュウィラー
畔柳和代訳 国書刊行会(短篇小説の快楽)2008年 2300円 

国書刊行会の短編集が続きました。キャロル・エムシュウィラー1921年生。御歳87で現役のSF作家らしい。既刊の五冊の短編集から抜粋された日本初のオリジナル短編集。20編のどれもがとっても『変』なんです。『奇妙な味』に近いけれどもっと突き抜けた感じで、『分けが分からない』作品ばかり。ほとんどが一人称で語られるけれど、なんかあやしい。どうも『信用の置けない語り手』でもあるようです。

でも単純に『信用の置けない語り手』として片付けられません。読むうちに徐々に浮かび上がる異様な全体像は、読み終えても確定しないので、読み手の想像にゆだねられる部分が大きいのです。奇怪な妄想の原点は何か?他者とかジェンダーとか深読みすればきりがないでしょうが、寓意を感じることができないくらい奇っ怪です。年を重ねた女性ならではの、細部の妙なリアリティーが可笑しい。★奇怪度

『私はあなたと暮らしているけれど、あなたはそれを知らない』★★時々、洗ったと思っていた食器が流しにいっぱいだったりする。
『すべての終わりの始まり』地球を救うと言うあの生き物たちは猫を除去するというので、隠れて猫を飼う。
『見下ろせば』★★★猫とへびを呑み込む鳥か神か人間か、半人間を見下ろしていたものが捕らえらて祀られた。
『おばあちゃん』孫が語るスーパーおばあちゃんは昔空を飛んだ。今だって、空も飛べるはず・・はないか。
『育ての母』どんな生き物だって、小さいときから育てれば情が通うはず・・。
『ウォーターマスター』山頂の湖のような青い眼をもつ守人とのロマンス?
『ボーイズ』★男たちはいつまでたってもボーイズ。戦闘の合間に、女たちだけの谷に降りてきては・・。
『男性倶楽部への報告』男になった女の男性倶楽部での挨拶。もう皮肉たっぷりで・・。
『待っている女』空港でひたすら待つうちに、体は縮んで・・
『悪を見るなかれ、喜ぶなかれ』ストイックな規律のコミュニティーからの逃走のはずが・・。
『セックスおよび/またはモリソン氏』老処女が巨漢モリソン氏に抱く性的妄想(と解説してはいけないんだろうが)。
ユーコン』★雪男の夫から逃れ熊と同棲し、何かを出産する。
『石造りの円形図書館』を発掘している(と信じている)老人ホームに送られそうな老婦人の抱く幻想。
『ジョーンズ夫人』確執をもつオールドメイド姉妹の妹が見つけた“夫”とは・・。
『ジョゼフィーン』と老人ホームからの恋の逃避行。
『いまいましい』そうそう、男ってなんにも見えてないのよ。
母語の神秘』見る前に飛べ・・るか。
『偏見と自負』Pride and Prejudiceの後日談?というか百年の誤読みたい。
『結局は』八十歳の誕生日には、こんなことを考えるんでしょうね。
『ウィスコン・スピーチ』2003年フェミニストSF大会のスピーチ。「日常を異化する」だそうです、なるほど。

面白かったですね~。どれもこれも濃い味付けで、珍味を一気に食べ過ぎておなかいっぱい。20編は多すぎです。半分ぐらいにしておけばよかったみたい。なんでだか笙野作品を思い出しました。