「ムギと王さま」は、小学生の時に読んだ本です。1960年代の初めに刊行された岩波少年少女文学全集に入っていて、初めて『文学の香り』をかいだ、非常に思い出深い本です。2001年に出た新版の少年文庫では27編全部が入っているとのことでまずは購入しましたが、読むのが惜しくてずっと読まずにいました。「天国を出ていく 本の小べや2」の方はもったいないのでもう少し寝かせておきましょう。
ムギと王さま 「おとうさんは、このムギ畑をもってます。」と、ぼくはいった。 ラー王は、そのギラギラする目で、ぼくたちのムギ畑を見やり、そして、いった。 「わしは、エジプトをもっている。」 そこで、ぼくはいった。 「それは、あんまりたくさんすぎます。」
月がほしいと王女さまが泣いた ヒバリは、のぼるかわりに、くだりました。ヒナギクは、うしろをむき、イヌは、ワンというかわりに、ニャアとなき、星はおりてきて、地上を歩き、ネズミは、やってきて、王さまを王座からつきおとし、カモメが王さまの足台にとまると、時計は、お昼に夜中を鳴らし、西から夜があけ、風はぎゃくに吹き、海は上げ潮にひき、ニワトリが鳴いてお月さんをよべば、月は裏がえしに黒い裏を見せてのぼり、昼はしょんぼりしぼんで、夜はすっかりめちゃくちゃになりました。
ヤング・ケート 「おくさま、森へいってもよろしゅうございますか。」 「いえ、いけないよ!」ドウさんはいいました。「森へなんかいくんじゃないよ!」 「まあ、おくさま、それは、なぜでございますか。」 「《おどる若衆》に会うといけないからね。よろい戸をしめて、ジャガイモをおむき。」
レモン色の子犬 そこで、とうとう、ジョーは、ゆっくりいった。 「犬はだめでございますから、ミツ色ネコをいただきましょう。」 「まあ!」王女さまは、いそいでさけんだ。「ネコがほしいなら、あたしは、ネコについているのよ。」 「そんなら、」ジョーも、まけずにいそいでいった。「犬がほしいんなら、あっしも犬についているんだ。」
モモの木をたすけた女の子 「あれまあ、これは、どうしたことだ!」ルチアはさけびました。「マリエッタは、どこへいった?」 そして、ルチアは、マリエッタの名をよびました。人びとも、よびました。けれども、そのかいもなく、マリエッタはいませんでした。 とつぜん、ルチアが、両手をあげて、さけびました。 「わかったよ、わかったよ! ああ、お聖人さま、おたすけください! あの子は、モモの木にキスしにいったんだ。」
西ノ森 「あなたはバタよりとろりとされて、 火に近づけばながれそう。 こんなにとろりとなされては、 ぼくのこのみにあいませぬ。 このおすがたを見ているうちに、 ぼくの勇気は もれてゆく。 妻をもとめてやってはきたが、 どうぞごめんとおおせください。」
小さな仕立屋さん
七ばんめの王女 これが、髪の毛のためにだけ生きていた六人の王女たちのお話です。この王女たちは、それからも、うばたちに髪の毛を洗ってもらい、ブラシをかけてもらい、とかしてもらって一生をすごしましたが、やがて、その髪も、王女さまたちのペットの六羽の白鳥のように白くなりました。半世紀近くも前なのに、印象深い場面が記憶に残っていました。髪が白くなっても、子供のころの気持ちはそのままです。