壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

怖い絵 中野京子

イメージ 1

怖い絵 中野京子
朝日出版社 2007年 1800円
題名だけみてホラーなのかと手に取れば、絵画の解説書でした。スプラッター系の見るからに怖い絵も、じっと見つめるとかすかに怖い絵もありますが、どこが怖いのかわからない絵も取り上げられています。

歴史的背景や、作者の事情、製作の経緯を知って初めて絵画を深く味わえるのだという視点に気付かされる本でした。歴史の切り口が面白くて、一見してひきつけられる絵画の奥の奥に、さらに魅力的な話が隠されていたとは驚きです。

たとえばドガの描く踊り子。「オペラ座は上流階級の男たちのための娼館」という背景と踊り子のもうひとつの姿を知り、改めて絵を見れば、まったく異なった絵にパタンと反転するような不思議な感じがしました。掲載されている絵画が見開き二ページになっていて見難かったので、ネットで探してしまった。
イメージ 2

作品1  ドガ『エトワール、または舞台の踊り子』
     「オペラ座は上流階級の男たちのための娼館」だった。
作品2  ティントレット『受胎告知』
      びっくり仰天する人間的なマリアに納得。
作品3  ムンク『思春期』
      思春期を迎えた少女の変貌と病める魂は影が作り出している。
作品4  クノップフ『見捨てられた街』
      死都ブリュージュの静かさに妹への屈折した思いが込められている。
作品5  ブロンツィーノ『愛の寓意』
      アブノーマルな関係に潜む謎。
作品6  ブリューゲル『絞首台の上のかささぎ』
      ”かささぎ”の意味するものは、密告。
作品7  ルドン『キュクロプス
      ルドンがやっと手に入れた癒し。
作品8  ボッティチェリ『ナスタジオ・デリ・オネスティの物語』
      新婚夫婦の寝室に飾られた残虐な絵は究極の愛の形。
作品9  ゴヤ『我が子を喰らうサトゥルヌス』
      聴力を失ったゴヤの見た地獄。
作品10 アルテミジア・ジェンティレスキ『ホロフェルネスの首を斬るユーディト』
      カラヴァッジョをしのぐリアリティーを持つ女性画家の肝の据わり方。
作品11 ホルバイン『ヘンリー八世像』
      宮廷画家を震え上がらせたイングランド王の怖さ。
作品12 ベーコン『ベラスケス<教皇インノケンティウス十世像>による習作』
      元のベラスケスの肖像の方がもっと怖い。
作品13 ホガース『グラハム家の子どもたち』
      満面の笑みに隠された影の主題はメメント・モリ
作品14 ダヴィッド『マリー・アントワネット最後の肖像』
      自らの悪意をさらけ出した画家。
作品15 グリューネヴァルト『イーゼンハイムの祭壇画』
      磔刑図の陰惨さは何ゆえ。
作品16 ジョルジョーネ『老婆の肖像』
      老醜を貶める近代思想の源流。
作品17 レーピン『イワン雷帝とその息子』
      体制批判の絵が訴えるもの。
作品18 コレッジョ『ガニュメデスの誘拐』
      小児○○○の源流。
作品19 ジェリコー『メデュース号の筏』
      あまりにリアルであるが故・・・。
作品20 ラ・トゥール『いかさま師』
      怖いのは詐欺師の邪悪な眼だけではない。