・・という宣伝文句と、二段組で700ページという厚さのわりには、読みやすいばかりか、面白くて笑えるし、感慨深い本でした。重くて腕が疲れたけれど、年末からずっと読み続けて、なんとか図書館の返却期限内に読み終わりました。出版された1981年当時は、もっと斬新で衝撃的な印象だったのでしょうね。
始まりの第三巻は、記憶を失ってアンサンクの(ハイテク地獄のような)地下施設に収容されるラナークの物語。第一巻と第二巻は、ダンカン・ソーの少年期、青年期の自伝風の物語。第四巻は地下施設からアンサンクに戻りその最期に立ち会うラナークの物語です。
さらに途中にはさまれたエピローグには著者が登場し、ラナークとダンカン・ソーと著者自身の関係を語り始め、物語論をぶち上げ、二つの物語をどんな風に重ね合わせるのか解説します。さらに、そこにつけられた注釈は評論家の分析らしきものという、凝った造りになっています。
ラナークを取巻く虚構世界も、現実世界のダンカン・ソーの心情も妄想も、はっきりと質感を感じられるような筆致です。本書の最後には「ラナークの生い立ち」に関するQ&Aというおまけまでついていて、読者が困らないように配慮されていて、表面的にはわかりやすいようですが・・
でも注に「第50章」とあるのに、実際には44章までしかないし、どこまでが本当なんでしょう。もっといろいろな仕掛けもありそうです。多数の引用や盗用があるらしいことはエピローグの脚注に示唆されているのですが、元ネタのわからないものは全く楽しめないので、読者の力及ばず、残念。