「両親はぼくに、アルネの遺品を箱に詰めてくれないかと頼んだ。」
ハンスは、12歳のときにこの家に引き取られてきたアルネの遺品を整理しながら、一家心中のたった一人の生き残りだったアルネの思い出を語り出しました。
ハンスは、12歳のときにこの家に引き取られてきたアルネの遺品を整理しながら、一家心中のたった一人の生き残りだったアルネの思い出を語り出しました。
フィンランド語文法の本、ボスニア湾のカラー地図、小さな灯台の模型、たくさんの遺品から回想されるアルネの姿は、初めはガラスのように透明ではかなげな存在でしたが、北ドイツエルベ河畔の町にすむ、無口だけれど思いやり深い人たちに囲まれて、幸せになったようにも見えました。
たしかにいじめのようなものはありました。ハンスの年若い弟妹や学校の同級生は、アルネを理解することができなかったのです。でも15歳のアルネはなぜ死ななければならなかったのか、それは最後まで明確に語られることはありません。痛々しいほどに純粋無垢で聡明なアルネは、この世に耐えることができなかったのでしょうか。
「遺失物管理所」とは色合いの違う物語です。もっと直接に胸に迫るものがあります。悲しみと、それと同じ重さの暖かさの余韻に包まれてしまいました。