壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

オルシニア国物語

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オルシニア国物語 アーシュラ・K・ル=グィン
峰岸久訳 早川文庫SF 1988年 500円

あとがきによれば、「オルシニア国物語」が出版されたのは1976年ですが、書いたのはル=グィンが執筆活動を始めて間もない頃だそうで、彼女の原点ともいえる物語です。11の短編からなり、どれもが架空の国オルシニアを舞台にしています。それぞれの物語の末尾に年代が記されていて、そこからオルシニアの歴史をおぼろげながら組み立てる事ができます。

噴水 The Fountains 1960年  パリで細胞学分科会に出席したケレス博士は、幻想の中で国を捨てようとしたが、果たせなかった。

塚 The Barrow 1150年  オドネを信仰する野蛮な異教徒から国を守り、神の教会の忠実な擁護者であるフレイガ伯爵の物語。

イーレの森 Ile Foreste 1920年  かつて、イーレの森を所有していたガルヴァン・イレスカールの過去を知ったボーマは、ガルヴァンと結婚した。

夜の会話 Conversations at Night 1920年  高い塔を持つ城壁に囲まれたラカヴァの都市の外には大きな黒い工場があった。軍隊で盲目となったサンゾには仕事がなく、リシャとの結婚をためらっていた。

東への道 The Road East 1956年  クラスノイに住むマレールの友人イーレンタールは投獄されたのか消息がわからない。兵士の機関銃は西を向いていた。

兄弟姉妹 Brothers and Sisters 1910年 石切り場でサチックを庇って怪我した兄コスタントに対し、敬愛と嫉妬を抱く弟ステファン・ファッブル。サチックの娘エカタと姉を慕う弟マルティンの物語。  

田舎での一週間 A Week in the Country 1962年 ステファン・ファッブル(上記のステファンの孫)は身寄りのないクラスノイの学生。夏の休暇で友人カシミールの妹ブルーナと知り合う。

音楽によせて An die Musik 1938年  素晴らしい作曲の才能を持つラディスラス・ゲイエの物語。音楽は必要とされない時代だったが、ゲイエは「音楽は何も救わないが、人間に空が見えるようにする」と感じる。

屋敷 The House 1965年 マリアはブルジョアだったピエールを捨てたが、やり直そうとまた戻ってきた。ピエールは経営していた会社が国有化され、今は零落し病気がちだった。

モーゲの姫君 The Lady of Moge 1640年   オルシニアの王位継承権をめぐる内乱に巻きこまれた、誇り高きモーゲの姫の物語。

想像の国 Imaginary Countries 1935年 豊かな森に囲まれた夏の休暇を過ごす別荘での、楽しく穏やかな毎日は、もう四十年も前の出来事だった。 

SFでもなければファンタジーとも言いがたいような、11編の物語ですが、世界のどこかに(たぶん東欧のどこかに)あるオルシニアという名の小国の波乱に満ちた歴史と、そこで生きた人々の愛と自由への希求がたしかに感じられます。読みやすいとはいえませんが、なかなか良い作品でした。ル=グィンの頭の中には、オルシニアの地図と年代記がきちんとできているのだろうと思います。

オルシニアを舞台に描かれた「マラフレナ」という長編もあって、1825年-30年のオーストリア支配下にあった時代が舞台らしいのですが、サンリオSF文庫に収録されていたので、図書館にもなく高価な古書になっていました。読みたかったのに残念です。復刻はないでしょうね、「Gedo Sennki」がこけたせいか、ル=グイン人気もあまり盛り上がらなかったし・・。でも、ハイニッシュ・ユニバーズのシリーズをほとんど読んでいないので、そっちが先ですね。