壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

妊娠カレンダー

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妊娠カレンダー 小川洋子
文春文庫 1994年 400円

不用本の戴き物です。確か、小川洋子作品は「密やかな結晶」に次いで二作目のはずです。女性らしい繊細な静けさが印象的でした。「妊娠カレンダー」「ドミトリイ」「夕暮れの給食室と雨のプール」の三編は、”透きとおった悪夢のようにあざやか”と紹介されていましたが、残念ながらそんな悪夢は今までに見たことがありません。

妊娠した姉にたいする妹のひそやかな悪意、寮生のほとんどいない学生寮にひそむ謎、小学校の給食室に何かのこだわりを持つ男。一見ホラーやミステリーのようですが、どれも女性たちの日常に潜むかすかな不安感を、別のものに託して引き出すための仕掛けなのでしょうね。

妊娠中の姉の人格が変ったように思ったり、夫の待つ海外に旅立たなければならなかったり、周囲から反対された結婚をひかえていたり。それぞれの不安が、別の謎にすりかえられていくようです。繊細でリアルな描写をもっと読みたいと思う作家ですが、「博士の愛した数式」のような超ベストセラーにはなかなか手が出ません。