壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

めぐらし屋

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めぐらし屋 堀江敏幸
毎日新聞社 2007年 1400円

「蕗子さん」は、長い間離れて暮らしていた父親が遺したノートをみつけました。表紙に筆ペンで大書きされた「めぐらし屋」とはいったいなんでしょうか。流れるように自然な文章は、「蕗子さん」の静かな日常を描いています。ディテールの描き方が素晴らしいのです。

低血圧のためすぐにボーッとしてしまう「蕗子さん」の周りの人たちは皆いい人です。あまり知らなかった父親の姿を求めて、ほんの少しだけ彼女の日常が変化しますが、「めぐらし屋」の意味は最後までわかりませんでした。

だからといって、知りたいという気持ちにもならないのです。ふわふわとした読後感をどうしたものでしょう。ゆったりと流れる時間の心地よさを、豊穣な癒しという風にとらえるのか、とらえどころのなさに焦燥を感じるのか、どこの位置にも決めかねて、堀江作品は三冊目ですがもう一冊読もうと思うのです。